9、Out of Surgery

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9、Out of Surgery

落ちていく。 もう、終わりだ。 けどなんだろうか。 手になんかの感覚がある。 柔らかいのにちゃんとした手。 力強い手。 「柚音ちゃん!!」 「………っ!?…あかせ?」 なんで? なんでいるの? ていうか、あんなに酷いこと言ったのになんで助けるの? 「引き上げるから上に上がる努力して!」 衣笠がこくりと頷くと赤瀬は思いっきり衣笠の腕を引っ張る。 衣笠は地上に手を置いて自分で登る。 「はぁはあ」 「痛ったい!」 私は赤瀬の上にいた。 いるはずのない彼の上に。 力いっぱい引っ張られた私の腕は痛みで悲鳴をあげている。 「大丈夫?」 「……意味わかんない」 「大丈夫そうだね。それよりあの患者さんを助けよう」 「え」 なんで赤瀬がいるの。 「名前は!?」 「三崎さん!!」 咄嗟に答えてしまった。 私も動かないと。 けど、足がすくんで動かない。 「緊張性気胸だ。運んでる余裕ないなぁ」 意識のない三崎の診察をしている赤瀬。 「消毒出して柚音ちゃん」 「え?」 「ドレナージする」 「何言ってんのあんた、こんな所で…」 「早くして!」 足が動かない。 怖かったし、なんで来てるのか意味わかんないし。 期待されてるのを裏切ったのも罪悪感でいっぱい。 「……目の前に死にかけてる命があるんだ!怖いかもしれない…けど迷うな!君の手しか頼れない。君は医者だ!」 「っ!?」 「三崎さん分かりますか?今から呼吸を楽にする治療をします。すぐ楽になりますからね」 あのKYやろう。 反抗ばっかりしてヘラヘラしたあの男。 目の前にいる別人のような医者の彼。 何してるんだろう。 何しに来たんだろう。 「緊急でドレナージを開始します」 消毒液で赤黒く染まった胸壁にメスを入れる。 リドカインで局麻した皮膚に赤い線が入る。 膿盆に置かれたペアン鉗子で組織を剥離すると胸膜に到達する。 血液のこぼれる傷口。 おそらく血胸でもある。 開ければ大出血。 「………」 手に感じる感覚。 迷って止めたペアンを握る手が胸膜をつきやぶる。 ゴム手袋をしたもうひとつの医者の手。 「赤瀬、私ドレーン入れる」 「柚音ちゃん。任せた」 赤瀬はトロッカーを衣笠に渡す。 「医者はあんただけじゃない。私だって衣笠先生だし。舐めないでね、赤瀬」 「うん!」 美しく入るチェストチューブ。 案の定排出される血液。 ペアンでチューブをクランプすると切開した創を縫合し、2人で三崎を運ぶ。 ───── ─── ─ 「衣笠!……赤瀬!?」 「立ち入り禁止ゾーンで発見した三崎さんです!緊張性気胸と血胸を起こしています。危険と判断して現場でドレナージしました」 「は?」 衣笠の言葉に驚きを隠せない椎名。 井山と石田も混じえてすぐに医療テントに運ぶ。 繋げた血圧モニターに映されたパルスとサチュレーションは危険そのものだった。 「切迫心停止。石田先生、開胸してアオルタクランプします」 「了解。ライトつけるぞ」 裁ち鋏で服を破ると胸一面に消毒をかける。 取り出したドレープをドレーンの入れてある場所に置くと椎名はドレーンを引き抜く。 「井山、器材とパルス頼む」 「了解」 「赤瀬と衣笠は必死で着いてこい」 「はい」 「始めます、メス」 「はい」 「……」 井山から受け取ったディスポ円刃を患者の胸壁に当てがる。 肋骨を縦断して切開すると開胸器で固定する。 早い。 赤瀬と衣笠の出る幕はない。 椎名のスピードと正確さに邪魔にならないようなヘルプを入れる井山も凄い。 会話のないオペなのに連携が取れている。 石田も口を挟むことなく全身管理をしている。 その異次元の世界に2人は息を飲む。 「よしクランプした」 サテンスキーが患部から飛び出している。 胸から出てきていた出血も止まっている。 「搬送しましょう」 椎名の一声でオペは終わった。 たった5分だった。 喧騒に包まれていた現場は夜の静けさを取り戻したようだ。 次回予告:いるはずのない赤瀬が現場に!?九死に一生を得た衣笠は赤瀬と共に現場でドレナージをする。しかしルールを破った彼らに迫る怒りの影…。 果たして、道のど真ん中で突然シンクホールなるものが出来ることはあるのだろうか。 ゼロではないけれども限りなく可能性は低い。 でも、そうなった時の覚悟や対処は頭の片隅に入れるべきでありんす。 俺が巻き込まれたら即座に諦めますが。 ちなみにあとでよくよく考えたら、よくこんなぶっ飛んだシナリオ考えたなぁって思いました。
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