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12、Hot Line
「相変わらず下手くそだなお前」
「椎名くんが上手いだけだよ」
「静注と基礎管理は基本だ。お前の新人期間は1週間前に終わってる。気を引き締めろ」
「……ごめん」
───あーあ。怒られた。うっざいなぁ
───そーやぁ赤瀬……何してんだろ
─────────
「赤瀬」
「はい」
石田が突然赤瀬を呼ぶ。
期待に胸をふくらませる赤瀬。
きらきらひかる目に嘆息する石田。
「お前のその天真爛漫は何とかならんのか?」
「任せてください!」
「はぁ……次の出動は衣笠じゃなくてお前を向かわせる」
「え?」
「なんだ、行きたくねーのか?」
「任せてください!」
「……励むことだな」
石田はその言葉を残すとERを去る。
「キラトくん。石田先生、ぶっきらぼうだけど期待してるみたいだよ?」
「ナオさん」
「うん」
「僕ってヒーローになれますか?」
「え?」
「期待されてるみたいなんですけど……期待に応えられる患者さんたちのヒーローになれるんですかね?」
「なるんだよ」
「……」
「なる。なれるなれんじゃない。君は医者。この世でたったひとつ、人に刃物を入れられる仕事。もう何十人のヒーローでしょ?」
赤瀬の目を光が点る。
この人はやっぱり僕の指針だ。
「………はい!」
「ほーんとその笑顔かわいいね。キラトくん」
「ありがとうございます!僕、柚音ちゃんとICUで訓練してきます」
「忙しい子だね」
一目散にかけていく赤瀬。
その後ろ姿に夢が沢山詰まってるように感じた。
ふとため息が聞こえる。
「はぁ……純粋で気づかないところも可愛い…。私も柄じゃないなぁ」
────────
「はぁー?なんで」
「君に差をつけたい」
「1人でやれよ。だいたい差をつけたいやつと修行ってミホークとゾロかよ」
「僕はヒーローになるから。柚音ちゃんもそうでしょ?」
「百歩譲ってヒロイン」
「どっちでもいいよ、そんなの」
「あのね?中世ヨーロッパのあからさまな言語の男尊女卑が嫌いなの。ヒーロー>ヒロインっていう感じ。まじで嫌い」
「じゃあ僕もヒロインなるから!」
「……ぇ…」
「行こ?ICU」
「…もーしかたないなぁ。うるさいし、いいよ」
何がヒロインなるだ。
馬鹿正直。
ほんとそーいうとこ……。
──────
「何?患者を捌きたい?」
「………。ちょっとそんな風には言ってないけど似たようなもんです」
「……復帰早々大丈夫なのか?」
「はい!僕達は元気です」
「ちげぇ。患者だ」
「え?」
「なまくらに切られる患者の身になれ」
「それは……」
赤瀬が口ごもると、
「大丈夫です。私たちはできます」
「……ふーん」
すると椎名がふたつの紙を渡してきた。
「1番左とその次。順に気切(気管切開)、胸腔ドレナージ」
「分かりました!」
「……」
赤瀬に続く衣笠。
「柚音ちゃん、この間ドレーン入れたから僕やる」
「え?私気管切開得意だけどいい?」
「もう負けない」
「あっそ」
言い合いをする2人。
どこにいても喧嘩の絶えないその姿。
「……ったくまじでうるせぇ……ちゃんと励めな」
誰にも聞こえない声で呟いた椎名はそっとICUから出ていった。
────────
「ふわぁぁ眠。疲れた」
「柚音ちゃん欠伸でか」
「あーもーなんでこんなノンデリカシー男とずっと2人なの?ほんとやだ」
ピリリリ ピリリリ
医局に鳴り響くホットライン。
「はい、春坂救命救急センター」
『浜松東区消防指令センターよりドクターヘリ要請。区内大型商業施設イオンモール浜松市野店にてエスカレーターからの墜落事故発生。受傷者2名、そのうち1名、高校生男子が物理的に動かせない状況続いています』
椎名は石田に確認をとる。
「春坂CS酒井くんの了解でた」
「出動します」
受話器を下ろすと真田がERに入ってくる。
「遅れました」
「真田、行け」
「わかった。行ってきます」
椎名は真田にカバンを預ける。
「残りふたりは井山と赤瀬だ」
「キラトくん」
「はい!お願いします」
3人は頷くとドクターヘリのロータリーへと走って行った。
次回予告:緊急出動!ホットラインの鳴る医局から飛び出した3人の姿。現場で命を救うことは出来るのか……。
。。。こぼれ話。。。
衣笠の顔面偏差値について。
皆さんはどんな顔を想像しますか?
この手のタイプの女性は顔面がお強いですわよね。
というわけで、俺の中では美人系の気が強い顔、でありんす。
真田さんはその対極でありんす。
俺は真田みたいな腹黒タイプは怖くて厳しぃでやんす。
だから自分で書いててイライラするでありんす。
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