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3、From day one
レスキュー用のライト。
大きなそれを手にした赤瀬は2人のレスキュー隊員を連れてトラックの元へと走る。
「あんた戻ってきたのか」
「患者の女性がふたつのリュックサックを携帯していました。おそらく恋人か友達のものだと推測します」
「憶測で医者が危険を犯すのはご法度ですよ」
「トラックと乗用車の隙間は確認しましたか?」
「いえ、この煙から分かるように安全確認が取れていません。視界も悪い。それにまだ運転手の救出ができていません」
「……遅い……」
─────────
「煌人!!」
「傑!!!」
燃え盛る校舎。
こちらに叫ぶ友達の声。
瓦礫に埋もれて身動きが取れない姿。
消防士たちは僕を担いでいく。
あの頃の様子が目に浮かぶ。
─────────
「……もう迷わない」
手をぐっと握る赤瀬。
視界の悪い隙間にライトを照らす。
「誰かいますか!!いるなら少しでいいので音を立ててください」
目を瞑る。
レスキュー隊の声。
作業の音。
石田先生の呼び声。
白井さんの掛け声。
その中に微かに聞こえる石の音。
摩擦音。
「………!?レスキュー!!要救助者発見!!」
「え!?」
「分かりますか!春坂救急の赤瀬です!」
「………うっ……ってぇ助けてくれ……」
「今助けます!」
「嘘だろ……見つかったのか」
2人のレスキュー隊員たちが顔を見合わせる。
「赤瀬先生!」
「……」
「先生!春坂救急のドクターが白車に常備している救急キットです」
「ありがたい、頂きます」
一緒に患者を救ったさっきの救急隊だった。
「まずい先生引火したぞ!」
立ち上る煙と火花。
赤瀬の横で火の粉が上がる。
「っ!?」
咄嗟に頭を守る。
しかし爆発までそんなに時間はなかった。
大きな火炎が舞う。
赤瀬は何が起きたのか理解する前に顔を上げる。
すると、
「……あなた」
「赤瀬先生…早く助けてくれ」
レスキューが赤瀬に覆いかぶさっていた。
「特殊な服を着ているから無事だ。だがいつ爆発があるか分からない。早く行け」
命をかけるものたちのバトンリレー。
赤瀬はその目をじっと見て頷く。
トラックの下に潜り込む。
砂煙と煙が舞い、視界が悪い。
確かに音がした。
ライトを照らす。
すると、赤瀬の手に何かがつく。
「血?」
血溜まりの先を照らすと……。
「!?…分かりますか!?」
「……たす…けて」
「今助けます!お名前言えますか?」
「……ささの…たけし」
「笹野さん!手を握ってみてください」
確かに感じる命の鼓動。
「ありがとうございます。絶対助けます。頑張りましょう」
笹野からこぼれる笑み。
赤瀬はすぐに笹野の近くに行き、処置を開始する。
「痛いところありますか?」
「あし……右足が……焼けるように痛い」
右足にライトを照らす。
「触ります」
「うっ………ぁぁあああ!」
車の車体が割れて右大腿部に突き刺さっている。
血痕も恐らくそれだ。
赤瀬は救命バックを開けると膿盆〈処置道具を並べる銀のお盆、容器〉に器材を出す。
「せ…先生……何するんですか」
「笹野さんの右足が車に巻き込まれて組織を酷く傷つけています。このままでは切断しなきゃいけなくなるので止血をします」
すると、
「せつだん……はぁはぁ、俺死ぬんすか!?」
笹野の呼吸が荒くなる。
赤瀬の言葉が不安を煽ったのだ。
日が登り、暑さを感じられる季節。
灼熱の現場で、落ち着いた声で話し始める赤瀬。
「落ち着いて……。深呼吸しましょう」
赤瀬の手が笹野の手の上に置かれる。
「せんせ……俺……彼女がいるんす……残して死ねねぇっす」
朝から、こんな酷い目にあって。
可哀想に。
痛みと暑さに耐えないといけない。
それに、
「その方なら無事ですよ」
「……え」
「あなたのリュックを抱えていました。だからあなたがここにいるんではないかと思い来ました」
「生きてる……んすか?」
「……はい。だからあなたを助けます」
患者の目に光がやどる。
「………まだ死ねねぇ……頼む。……先生」
覚悟を決めた眼差し。
まだ置いて死ねないという気迫。
赤瀬は手をぎゅっと握ると一言つぶやく。
「頑張りましょう」
手を離すと笹野は目を瞑る。
始まる。
2人の戦いが……。
次回予告:覚悟を決めた赤瀬と笹野。ついに車の下での緊急手術が行われる。命の物語を超えた先にあるものとは!?
。。。こぼれ話。。。
白井さん、イメージ湧きますか?
身長180越えのゴリラです。
残念ながら、力が強すぎます。
僕はチキンなので喜んで指示に従います。
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