5、Emergency room

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5、Emergency room

「一体あいつは何者ですか…」 「鬼才の赤瀬かぁ。早速現場で波乱万丈をかましたらしいな」 院長室。 大きな椅子に腰かける石田と院長の黒鉄 真人(くろがね まひと)。 荘厳な雰囲気の中、報告が始まる。 「トリアージの完璧な判断。自分の危険を顧みない特攻。なにより白井にすら怖気づかせる気迫。ただ、処置をする技術は持ち合わせていない」 「致命的だな。治療ができないなら話にならん」 「ええ……」 ──13時25分 「うわぁぁおっきい病院だなあ」 自動ドアをくぐると巨大なフロントが待ち構えていた。 人が雑踏としている。 病院服を着る患者、白衣を着るドクター。 患者と談笑するナース。 受付で対応をする事務員。 赤瀬はその光景に見惚れていた。 「んー?どうかしました?」 「え、あ。ER(イーアール)〈ER:EMERGENCY Room。緊急救命室、いわゆる救急科の治療室〉探していて。初めてきたんですよね」 赤瀬に話しかけてきた女医? 青いスクラブをまとった彼女はキリッとした顔立ちの若いドクターだ。 赤瀬は事情を説明する。 「私は救急の医者です。ご案内します」 「衣笠先生とおっしゃるんですね」 「あ、ええ」 「僕は赤瀬と申します」 「赤瀬さん。どんなご要件で?」 「あ。遅刻して…今日」 「ん?遅刻?」 「赤瀬煌人。今日からそちらの救命でお世話になる新人の医者です」 「………」 突然衣笠の足が止まる。 「へ?」 振り返った衣笠は顔を真っ赤にして鬼の形相で赤瀬に睨みつけていた。 心当たりのない赤瀬は憤怒の顔色に恐縮していた。 すると、 ペシッ! 赤瀬の頬に鋭い痛みが走る。 「あんたのせいでこっちまで……こっちまでしようも無いやつって言うレッテル貼られたんだけどー!!!!」 ───── 「ドクター撤退時刻午前11時22分。出勤時間8時に遅刻。仮に事故がなくてもあの距離を徒歩でなら秒速2キロ以上でないと間違いなく遅刻。さて、空白の2時間でラーメンを食いさらに遅刻。満を持して到着した病院のフロントで大声でドクターがドクターをぶつという暴力行為。今年の新人2人は仕事を舐めているのか?」 ─医局 「命は軽くない……少しの抜かりが針刺しミス、血管を傷つけ命を奪う。お前たちは医者に向いてない。衣笠……初日から張り切りすぎだ。心を病まれている患者さんもいらっしゃる。そんな中で暴力を振るったり怒鳴ったりするな。周りの迷惑だ。赤瀬……お前のマイペースなスタイルは俺の一番嫌いな人間そのものだ。事務仕事で終わりたくなければ今後しっかり正すべきだな。以上だ」 「「はい、すみませんでした」」 頭を下げる2人。 石田は椅子に腰かけると赤瀬の方をじっと見ていた。 「えと……え?」 「お前は残れ。衣笠はもういいぞ」 「いえ、カルテチェックを任されているので」 「そうか。赤瀬……今日の現場ご苦労だった」 衣笠の顔色が変わる。 「いえ。出来ることをしただけですから」 「そうか…ところで聞きたい。お前はあの時俺に指示を出した。『遅発性の重症気胸』と。そんな言葉を俺は聞いたことがない。実際『緊張性気胸』だった。一体お前はどうしてあれを見抜いた」 赤瀬はリュックを背負ったまま石田の質問に答える。 「あの患者さんは足が変形するほど圧迫されてました。クラッシュ症候群の予備状態。レスキューが作業する過程でカリウム、ミオグロビンが流れていけば当然ですが心停止します。ところがあの場合ゆっくりと開放されるので流出する物質の量は比例していくんです。穿刺針を刺すだけの治療で済むはずのあの気胸はサチュレーションがだんだんと下がっていくでは命取りになりうる。しかし気胸自体は軽傷なので軽度の皮下気腫だけでした。当然頸静脈の怒張もしません。気胸の症状を見落とす可能性が誰にでも起こりえたので伝えました」 「それで遅発性」 「言葉がそれでピッタリだったんです」 「なるほど」 「………」 「だがアホをやるお前に現場はまだ任せられん。臨床でしっかり学べ」 そう言うと石田は医局を出ていった。 残された2人。 重苦しい空気が漂う。 それもそのはず、赤瀬に向けられるピリピリとした視線。 明らかに空気の色が1箇所違うのだ。 「な、なに?」 「私は衣笠柚音。同じ新人同士どうぞよろしく!」 顔が笑ってなーい。 「誤解したのはごめん……。だけど認めるつもりは無いから!あんたのせいで、あんたが遅刻したせいで今年の新人はこんなんなのかって言われたあの屈辱だけは絶対許さないから。あんたが初っ端から現場で爪痕残しただかなんだか知らないけどねぇ。私は認めないから!じゃね、最低な赤瀬煌人くん!」 大きな音を立てて閉まる扉。 赤瀬の目に映った真っ暗闇。 雲行きはどんどん怪しくなっていくようだ…。 次回予告:たどり着いたER。医局のフェロー(同僚)達との初対面だがKY小僧の赤瀬がまたもや!?そんな抜けた赤瀬にはある過去が……。 。。。こぼれ話。。。 黒鉄せんせーはちび。 そしてハゲ。 石田先生はメガネでクール。 そんな感じしない?
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