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6、Team Member
──14時30分
「救急はいつも忙しない。一分一秒が貴重だ。しかし新人紹介は大事な事だ。赤瀬……」
ERに陳列するドクターとナースと事務員たち。
石田のリリシズムを前にして赤瀬は気まづく頭を下げる。
少々不穏な空気が流れるもそのはず。
こやつは遅刻したのだ。
うん、当たり前。
「救急に配属されました!アカセキラトです!!」
「うるっさい!あんた。声でかい!救急だよ?他の患者いる前でバカなの!?」
「お前も大概だ衣笠。……お前たち、昼に行ったこと忘れたのか…」
疑問符のない怒りの声。
石田の憤怒の重低音が鼓膜に轟く。
2人は静かに頭を下げると赤瀬は元に戻る。
「真田楓菜です。一応去年まで君たちのポジションだけど先輩らしく頑張るから…よろしくね!」
無邪気な笑顔に赤瀬もにっこり頷く。
「井山和灯です!……今日の現場、張り切りすぎだったね。お疲れ様。改めてよろしくね、赤瀬くん」
「はい!井山さん」
最後に前に出てきたのは、
「あ、あの時の…」
「あ。じゃねえ。現場で危険行動をするな。遅刻もだ。衣笠…カルテのチェック終わったか?」
「はい、んと目を通して覚えればいいんですよね?」
赤瀬のターンは終わった。
繰り広げられる眼前の勤務。
あしらわれた赤瀬は気まづく縮こまる。
「……お前、目を通すだけで覚えられるほど甘くないぞ。ほんとにやったか?」
「405号室 羽鳥さん。今朝のカルテと昼の胸腔エコーの比較をしてドレナージ適応だなって思いました。あとは覚えました」
「…瞬間記憶ってやつか。まぁいい、水を抜きに行くぞ」
椎名は足早にERから去っていく。
去り際、赤瀬に小悪魔の笑みを浮かべる衣笠はルンルンで出ていった。
煽られたことに気づいていない赤瀬は石田の方を向く。
「遅刻したお前に構うほどうちは暇じゃない。まずお前もカルテやマニュアルに目を通して病院を知れ。1人でデタラメにできる場所じゃないことを知れ」
石田の言葉に赤瀬は反論する。
「………僕の行動は間違っていたってことですか?」
「白井が間違っていたとでも?」
「……それは…」
「お前は現場に奇想天外を良い方向に動かすだけの発想だ。だが神風思想は戦場を駆け回る丸腰の兵隊。いつか死ぬ。白井と俺はそれを言いたい。それに手先は不器用。難点がありすぎるんだ」
「あの時、あの現場でなんで…アドバイスなんて」
「腹を空かせたいつも自分に吠えてくる犬を助けない非人道者がどこにいる。なってしまったものは仕方ない。だが肯定するつもりもない」
「………」
「いいか赤瀬……学べ。命はいつだってお前に嫌でも乗しかかってくる。知れ、医者とは何かを」
「………」
──────────
ER前の廊下で1人腰かける赤瀬。
彼は今、考えていた。
出ない答え。
でも、出したくない答え。
「医者……って」
──────────
「すぐる~。君ははホント馬鹿だなぁ」
「キラトに言われたくねーし。じゃあ行ってくるわ」
「うん!忘れ物は教室?」
「そーそー。仮設住宅の説明ってどこの教室でしたっけ」
「んー、突き当たりの1組じゃなかったっけ?」
「そっか、じゃな」
「うん!行かなくていいの?僕」
「たまには1人で耽りたいんだよ」
「そっか」
──────────
「あの時僕が……2組って言ってればもしかしたら……傑…僕のせいで」
「あれれ?こんなとこでひとり何してるの?」
「……え、井山さん」
「難しい顔して、疲れたの?」
「………」
「ん?黙ってどうした?キラトくん」
僕はこの日、懐かしい思いに胸が熱くなった。
───────
プルルルルー プルルルルー
「はい、春坂救命救急センター」
───────
一体いつからだろう。
───────
石田の携帯の繋がる先。
血相を変えた石田は要件を伝える。
「椎名、出動だ」
───────
「はい。今、夕食をとっていました。すぐ向かいます。それでなんの出動ですか?」
次の瞬間、椎名の時が止まる。
おぞましいその数字に驚きを隠せないでいた。
「30…人」
───────
こんなにも孤独が辛いと感じたのは。
次回予告:物思いにふけるキラト。その隣に座ってきた人とは……。そんな中ホットラインが夜のERに鳴り響く。出動した先にあるものとは……?
多分赤瀬も衣笠も、現実ならクビ飛ぶよね。
あれまぁ。
まあ、物語だもん。
メタいこと言うなて。
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