7、Deepness

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7、Deepness

人は1人では生きていけない。 けれど独りで生きていくことは出来る。 「ちょっと…考え事してました」 「そっか。何かあったらいいなね?私、こう見えてもお姉ちゃんって呼ばれてるんだ」 いつも隣には誰かが居た。 けどそれは満たされることは無かった。 友達がいなかった訳では無い。 けれど、1人じゃなくても独りだった。 「ありがとうございます」 「うん。ふーちゃんや私はキラト君の味方だから。一緒にがんばろう」 「……」 そんな僕にお構い無しに直面する現実。 突っ走りすぎてしまう僕は止めてくれる人がいないと壊れるまで走ってしまう。 でも、ここには僕と真剣に向き合ってくれる人達が沢山いる。 独りじゃない……。 「なんか元気出ました!ありがとうございます。ナオさん!」 「うん。それなら良かった」 孤独が辛いと感じても、ここなら孤独じゃない。 あの日から止まってた僕の時は動くのかもしれない。 だったら、僕は医者とは何かを探すためにたくさんの人の命を助けるヒーローになる。 「ん?」 「どうかしました?」 「今、ナオさんって呼んだ?」 「はい。やめた方がいいですか?」 「なんかそれいいね。嬉しい。仲良くなれた気がする」 「……僕は出会った人全てと仲良くなりたいんです」 「……なんかいいね」 ふとズボンのポケットがバイブする。 2人はPHSを取り出すと石田から着信が来ていた。 こんな時間にどうしたんだろう。 「ホットラインか」 「え?」 「キラトくん早く出て」 「あ、はい」 そうか、一斉にことを伝えるために同時に複数に繋がるのか。 赤瀬はPHSを開くと耳に当てる。 『ホットラインで緊急出動要請だ。ERに集まってくれ』 ───── 最後にやってくる2人。 既にほかの4人は集まっていた。 2人を確認すると石田は説明を開始した。 「市内の道路で突然シンクホールが発生した」 「シンクホール?」 「地面に巨大な空洞が出来るそうだ。車を含め巻き込まれた人間が30人以上。この時間でヘリを出せないのでドクターカーを出動させる」 「ドクターカー?」 「赤瀬…質問の多いやつだなぁお前は。待ってる時間を省いて現場にドクターが赴いて処置をするシステムだ。メンバーは俺、椎名、井山で行く。他の科に応援要請と受け入れを真田と赤瀬、衣笠頼む」 「石田先生、30人に対して3人じゃ厳しい。衣笠を連れていきませんか?」 椎名の推薦に衣笠は自信ありげに石田を見つめる。 「……よし分かった。お前もこい」 「ちょっと待ってください、僕はなんで行かないんですか?」 「黙れ赤瀬。医局長の決定に遅刻が口出しするな」 「椎名先生の言う通り。あんたはここでやれることをやるの」 衣笠と椎名は赤瀬を突き放す。 諦めた赤瀬の顔を見て井山と石田も準備を始める。 「やたらに出てくるやつだけがヒーローなんて甘いこと思うな赤瀬。冷静に動けるやつが多くの命を救う。お前は未熟だ。これから衣笠の力を見極める。」 「………不服ですがやれることをします」 「……頼む」 石田が頷くと4人はドクターカーに向かって走り出した。 「赤瀬先生」 「楓菜先生……ごめんなさい。気合いが入ると前が見えなくて」 「仕方ないよ。誰だって命を救いたいと思ってる。けど、あの采配に間違いはない。石田先生はこの国でも有数のエキスパート救急医。君がここで何かを成し遂げるって信じてくれたから。頑張ろ?」 「はい!」 「それよりー、それよりー」 「ん?どうしました?」 「名前で呼んでくれた?」 「え。あ。すみません。人の事苗字で呼ぶの嫌いで」 「親しい感じでいいじゃん」 「ありがとうございます」 「いーえー。よし。他科の先生を呼ぶか」 「え?」 「救急のドクターやナースはこれだけじゃないんだよ?専門技術も学んでいる先生や出張行って消えた先生とかもね。ナースもいっぱい」 「じゃないと回らないですもんね」 「うん、じゃあ張り切っていこうか!」 ─────── ──17時25分 現場 「……何これ」 立ち上る煙。 サイレンが鳴り響く三方原。 救急車やパトカー。 レスキュー車も来ていた。 レスキュー隊員は既に作業を開始している。 作業の声や音に混ざるけが人の悲鳴が心地悪い。 目の前に広がる巨大な穴。 「少々初日からこれはお前にきついかもな」 椎名の表情からもみてとれるように衣笠は冷や汗を流す。 野次馬をかき抜けた先へ。 夕暮れの試練が始まった。 次回予告:大きな幹線道路で突如発生した自然災害、シンクホール。穴に飲み込まれて怪我をした患者を助けるべくドクターカーで夜の街を駆け巡る4人の救急医。衣笠の初臨場が始まる。 この物語はホットラインと違って、医療シーンでない人間ドラマでまるまる1ページ使うシーンが大量にあります。 クライマックスはほぼほぼ医療シーンだけれども。 というわけで、物足りなさを感じる人はホットラインへ。 ただしこっから赤瀬についてや衣笠についての話しが進むと止まらなくなると思うので、後悔しないように……。
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