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8、cannot wait
「ハシゴや車を使って中に入り巻き込まれた人を上にあげ、ここに運んでいる。穴から少し離れたここは安全という見立だ。現場には決して近づかないようにブルーシートでトリアージ。処置が必要ならば医療テントで簡便な処置をしたら白車で搬送。以上だ!1人でも多く救うぞ!」
「「「 はい! 」」」
石田の指示で活動を開始する一行。
1人でも多くを救うために奮闘する。
そのためにここに来た。
病院にいてはできないことがここにはある。
それは、搬送までに亡くなってしまう人を救うことだ。
「衣笠…」
「はい」
「お前が思う命の救い方をしてみろ。お前を待ってる命に手を差し伸べろ」
「トリアージします」
椎名は頷くと救命バックを持ってトリアージを開始した。
手をぎゅっと握ると胸に手を当てて歩き出す。
自分はここに命を救いに来た。
「春坂救命センターの衣笠です。分かりますか?」
「………」
応答はなし。
意識がなく頭に傷がある。
「頭部外傷で瞳孔不同。レベル3桁」
衣笠はトリアージタグを取り出すと名前や要項を書き患者の腕に通す。
すると黄色と赤の境界線を破り黄色以下を捨てる。
「救急隊いますか?」
「はい!」
「この患者さんを搬送してください。急性の頭蓋内出血の可能性があります」
「分かりました!」
胸を撫で下ろす衣笠。
研修期間の2年で救急医として培ったものは生かされている。
けれどこんな現場は初めてだ。
独り立ちする立派なドクターとしての一日目。
たかが1人だ。
まだ29人以上いる。
「上出来だ。その調子で頼む」
「分かりました」
ふと目に映るもの。
こちらに手を伸ばし助けを乞う人。
椎名と逆方向に歩き出す衣笠。
だがそちらは穴の方角だった……。
───────────
「なんだかやることないね。他科にそのまま渡されるし」
「………」
「ここまでの道って狭いからさ。近くに大きな道があるからそっちからもうひとつの病院に流れてるんだよね」
「じゃあここにいる意味ってあるんですか?」
「えー?キラトくんさっき肝臓腫瘍と出血の違い見分けたじゃん。あれを先に分かってるか分かってないかでオペの采配、割と決まるよ?」
「……はい」
───────────
「鈴木さんじっとしてください」
「痛い!!!ァァァァァ!!!」
椎名は右腕を複雑骨折し左足を開放骨折した男性を診ていた。
「腕は病院で処置しますが救急車の中でシーネで固定してもらいます。ですが足の出血が酷く命に関わるのでここで止血と消毒をします」
「待ってくれ……何をするんだ」
「切開して血管を縛ります」
「……ふざけんな……そんな痛いもの耐えれるわけないだろ!」
「麻酔をします。抑えてください」
救護室の外にまで響き渡る鈴木の悲鳴。
外でトリアージをする井山と石田。
「随分大変そうだな」
「こっちも大変ですよ」
すると、
「おい石田たち」
「白井…どうした」
白井が血相を変えてこっちに走ってきた。
──────────
「春坂救命センターの衣笠です。分かりますか?」
人のいないエリアだった。
そこに倒れていた一人の女性。
「胸が……痛くて。穴が空いたから転んでしまって」
衣笠は救急バックを置くと聴診器を手にする。
「失礼します」
左の呼吸音が弱かった。
見てみると頸静脈の怒張。
それに皮下気腫。
(っ気胸!?)
ここで手術なんて出来ない。
「お名前言えますか?」
「三崎です」
「三崎さん…あなたは転んだ衝撃で胸を強く打ち肺に穴が空き、心臓を圧迫しています。直ぐに空気を抜かなければ行けません」
「え……そんな大変なんですか」
「はい」
助けを呼ぼうとする。
しかし衣笠はようやく気づいた。
自分たち以外に周りが居ないことを。
ブルーシートの外れに三崎を発見し近づいた。
けれど立ち入り禁止に気づいていなかった。
──────────
「幸い穴は浅いが亀裂が進行している。ここも巻き込まれる可能性がある。お前たちも退避しろ」
「分かった。残り2人のトリアージを終えたら退避する」
「了解だ。健闘を祈る」
白井が去ると今度は椎名が医療テントから出てきた。
「どうだ」
「止血出来ました。……どうかしました?」
「シンクホールの亀裂が広がってるそうだ。今やってる事項を終えたら直ぐに撤退だと命令が下された」
「分かりました……ん?」
椎名はあることに気づく。
「衣笠……?」
─────────
「では行きましょう。頑張りますよ」
「ええ」
意識が朦朧とする三崎。
おぼつかない足取りを支える衣笠。
もう持たない。
けれど自分がここでオペする技術なんて持ち合わせていない。
「ん?なんの音?」
足元の違和感。
でも、
気づいた時にはもう遅かった。
「退避!!!大幅に穴が広がるぞ!」
レスキューの声がする。
絶望ってきっと…これを言うのかな。
浮遊感。
勝手に入っちゃいけないとこ入った私が悪い。
でも、咄嗟に三崎さんを押して庇えてよかった。
一日だけど医者できたのかな……。
命は暗闇へ…。
次回予告:突如走る亀裂に飲み込まれる衣笠。危険区域に立ち入った彼女は患者を残して奈落へ。そして絶望の彼女の命は消えかけていく……。
実際の現場でオペをすることはほとんどありません。
多くの論文を読みましたが、地震の際の足の切断や救急車でのドレナージはあります。
ただし、どれも数分の世界ではなく数時間の世界で、予後はどれも悪いです。
いかにコードブルーやほかの医療ドラマの外での手術で助かる人が奇跡で、彼らの腕が良すぎるのが見て取れます。
ということで、この物語の医者は優秀でーす。
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