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「あれ」
衣替えをしている最中に静止した紫雨の肩越しに覗き込んだ林が声を上げた。
「紫雨さんの高校って学ランでしたっけ?」
「いやー?」
紫雨は振り返りながら言った。
「ブレザー」
「ですよね」
秒で答えた林が、紫雨が手にしている学ランを見下ろした。
「ではそれは?なんかボタンが取れてボロボロですけど」
紫雨は改めてその学ランを見下ろした。
「俺の……」
「紫雨さんの?」
「初恋の人の、かな」
「即焼却処分で」
林がそれを取り上げる。
「ちょっ!やめろ!返せ!!」
「こんなの大事に持ってぇ!あんた、篠崎さんから貰った煙草とかもとってるとかないでしょうねえ!?」
「――なんで知ってんだよ…?」
「……ちょ、マジふざけんな!どこにあるんですか!今すぐ燃やしてやる!!」
「ああ、やめてえ!」
林は学ランを衣装ケースに置くと、ドスドスと足を踏み鳴らしながら部屋を出て行った。
ーーいや、んなわけねーだろ。
紫雨はふっと笑うと学ランを拾い上げ、
「入るかな……」
クローゼットの鏡に映しながら羽織ってみた。
着古して柔らかい学ランからは、
クローゼットの木の匂いに混じって、
僅かに煙草の匂いがした。
【完】
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