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季節は移ろい、長期休みを挟み、夏が終わろうとしていた。
「こう連日あっちーと、屋上もきついな」
出入口の凸部分の影に隠れながら紫雨は襟元を掴んで自分で仰いだ。
「……別に無理して屋上に来ることもねーだろうが」
矢島も暑そうに首にタオルを巻きながら額の汗を拭っている。
「んなの矢島さんも同じでしょ。階段の上り下りだけでも大変なのに」
2学期に入りいよいよ単位取得する気になったのか、矢島はこのところ授業もサボらずに出ていた。
大半を寝て過ごしてはいるが……。
「付き合わされるこっちの身にもなってよー」
――なんてね。
紫雨はふっと笑った。
一緒に教室抜け出す時間も戻る時間も、結構好きだったりして……。
なんていうか。特別な友達って感じ?
「……………」
矢島はにやにや笑っている紫雨を呆れた眼で見ていた。
「お前……恋人なんて言わねえから、ダチくらい作った方がいいんじゃねえのか」
「え……」
「俺なんかと一緒にいても、仕方ねえだろ」
「………」
紫雨は顎に垂れ落ちた汗を拭う矢島を見つめた。
――ナニソレ。
俺たちって……
ダチジャナイノ……?
「ふっ……」
紫雨はごろんと矢島の脇に仰向けに横になった。
「じゃあ、矢島さんが彼氏になってよ」
矢島が金網の向こうを睨むように目を細める。
「生憎俺は、男は趣味じゃねえんだよ」
「はは。知ってる。俺も誰でもいいわけじゃねえし」
紫雨はポケットからスマートフォンを取り出して、画像フォルダから倉科を選んだ。
「なあなあ、倉科君、今東京にいるって本当?」
「――俺より知ってんじゃねえか」
矢島が鼻で笑う。
「会う機会とかねえの?同窓会とかさ。あの人は今!的なドキュメンタリー番組とかさ」
「アホか。あるわけねえだろ。一生会わねえよ」
矢島が伸ばした足を引き寄せ、その膝に腕を掛けた。
「ざんねーん」
紫雨はスマートフォンを目に当てた。
スマートフォンが熱くなった眼球を覚ましていく。
――そっか。
そうだよな。
矢島さんは別に一人でいい人なんだ。
ソレが俺みたいな変わり種がいつも周りをウロついてんじゃ、うぜーわな。
ーーもう屋上に来るのも、やめようかな。
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