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「……お前は」 矢島がため息混じりに口を開いた。 「本当に男が好きなんだな」 「――珍しい?」 スマートフォンで顔を隠したまま言う。 「いや。この1年の間に何人かと会ったから、珍しくもなんでもねえ」 矢島は立てている足を入れ替えた。 「矢島さん、男にモテそうだからなあ。迫られたりした?」 聞くと、 「モテはしねえが多少な」 矢島が答えた。 何だ。 もうすでに男に言い寄られてんじゃん。 それがトラウマになって? ゲイはうんざりとか? うは。ありがち……。 ――俺は、そんなことしないのに。 「でも別に、男だから嫌だとかはなかった」 「………………」 ――え。それってどゆこと? 紫雨はスマートフォンの下からハテナマークを溢れさせながら首を捻った。 ーー男もイケるってこと? 違うか。男は趣味じゃないって言ってたし。 あ、もしかしてあれか? ゲイに偏見はないとか、 ゲイに嫌悪感はないとか、 そういうことを暗に伝えてくれようとしてるのか……? 「お前は、女が嫌いなんだろ」 まだ考え中なのに、矢島は次の話題を提示した。 「うん。嫌い。嫌いも嫌いで大嫌い」 紫雨は笑った。 「春にさ。教室で聞いてたでしょ。俺、親がいなくてさ。引き取ってくれた伯母に上に乗られててさ」 「――なんだそれ。セックスしてたってことか?」 矢島が低い声で聞く。 ――やべえ。そんな声で“セックス”とか軽く言われちゃうと勃ちそう。 「セックスしたり?しなかったり?ラジバンダリ!」 「…………」 誤魔化し半分に懐かしいギャグを放ってみたが、つまらなかったか知らなかったのか矢島はクスリとも笑わなかった。 「――14歳から毎晩毎晩。ほんと、性欲ババアだったよ。おかげでもう一生、俺は仰向けに寝ることさえ出来ねえ」 紫雨は滑り落ちそうになったスマートフォンを直した。 「……仰向けになるとさ、てか天井を見上げただけで、あのババアが出てくんだよ。俺を見下ろすあの顔が……」 紫雨はフフフと笑った。 「地獄ですよ。フツーに」 目に涙が溜まっていく。 ーー俺は何を言ってるんだ。 向こうは俺をダチだとも思ってないのに、こんなに一方的に心を開いて。 今まで誰にも話したことのないような重い話を……。 ま、いっか。 屋上に来るのも、 この人に付きまとうのも、 これが最後だし―――。 「お前、男とはヤッたことねーの」 矢島が斜め上な質問をしてきた。 「―――え」 「男が好きなんだろ」 「……残念ながらナイデスケド……?」 「へえ」 矢島はなぜか笑った。 「じゃあ、そっち関係では俺のが先輩だな」 「―――?」 「悪いが俺は、校内きってのイケメンの、アレを扱いてヌイてやったことがある」 「!!!」 紫雨はスマートフォンを滑り落しながら起き上がった。 「その話!詳しく!!」 「―――ふっ」 矢島は腕にしがみつく紫雨を見て楽しそうに笑った。 彼がこんなに笑ったのを見たのは、初めてだった。
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