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◇◇◇
「アレー?急に大人しくなってやんの」
平良の声がする。
「本当はヤッてほしかったんじゃねえの?」
山田の声も聞こえる。
しかし紫雨の視界には伯母しか見えない。
嬉しそうにこちらを見下ろしている中年女性しか映らない。
「ちょっと、上も脱がせろよ。こいつの白い肌、ちょっとクるよな……」
「うわ、キモ。ホモが移ったのかよ」
「いや、どうせなら楽しもうと思って。ほら。乳首の色も。ーーこいつ本当に男かよ?」
遠くで男たちの声が聞こえる。
それでも紫雨は、意識の中で伯母に話しかけた。
『……いい加減、消えてくれよ』
『――――』
『十分だろ。俺、十分我慢したって……』
『――――』
『どうやったら消えてくれんの?』
『――――』
『施設に殴り込んで、本物のあんたを殺せば消えんのか?』
そうか。
そうした方が早いか。
「あれ?ちょっと勃ってねえ?こいつ!」
剥かれていく自分の身体を見下ろす。
どうせ、教室も少年院も、
ヤラれることはきっと変わらない。
それならいっそ――――。
「?」
男たちの声が急に聞こえなくなった。
抑えつけられていた圧迫感もない。
ただ目の前にはいつものように見下ろしている伯母がいるだけだ。
「紫雨」
低い声が響く。
幻聴?
だってーーー
帰ったはずだ。
フケたはずだ。
なのに、なんで声が聞こえるんだ……?
「今、そこにいんのか」
「?」
「今、お前の上に見えてんのか、そのババアは」
低い声に、精一杯頷いて応える。
「そうか」
低い声は聞こえなくなった。
やはり幻聴だったのだろうか。
そのとき……
「ーーじゃあ、その面、よく見とけよ…!」
次の瞬間、
「!!!」
履き潰した上履きが伯母の頬に入り、顔が真横に曲がった。
歪んだ脛骨が確かにボキッと音を立てた。
伯母の笑顔は歪み、口からは血が吹き出した。
伯母はそのまま視界からフェードアウトし、
代わりに両目を真っ赤に染めた矢島が立っていた。
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