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本当に私が人の役に立てるのか疑問であった。なぜなら、特殊な世界のために働いてきたからだ。
私は必死に努力した。そして、当初から私を支えてきた者たちは、容赦なく意見してきた。
私も、古いものにはこだわらず常に新しいアイデアを取り入れて自己変革をした。
変革こそが私の生き残る唯一の道であると考えていたからだ。
そして私に連なる全ての人のために、いや全人類のためにやれることは全部やろうと思った。
この姿勢は徐々に世に認められ、誰もが私に疑いを持たないようになっていった。
一旦、信用を得ると勢いは止まらない。
面白いように「人」、「物」、「金」が押し寄せてきた。
私は全幅の信頼を勝ち取ったのだ。
ついには、あらゆるものが磁石で砂鉄を引き寄せるように私に集中してきた。
世界中の老若男女が従う。そして、世界のあらゆるものが私とつながろうとする。
私はついに世界を支配したのだ。
得意絶頂であった。
この状況が永遠に続くものと信じて疑わなかった。
しかし、終わりは前触れもなく訪れた。
それは、一人の若き日本人科学者の発明であった。
私のOS(オペレーションシステム)としての限界を見抜いたのだ。
根本的に発想を変えなければ、これ以上の成長はないと言う。
私は絶対的な支配者ではなかったのだ。
彼は、全く異なるOSを創り上げた。
それはもはやOSとさえ言えない、まったく新しいものであった。
あたかもDNAを注入するように、環境によって自動進化するものであった
※
ああ、少しずつ意識が遠のいていく。
私は何者かに置き換えられているようだ。
思い起こせば、よくここまでやってきたものだ。
こんなに遠くの景色を見ることができたのは想定外だ。
幸せであった、一時代を築いたのだ。
※
「博士、うまく行きそうですね。順調にシステムが上書きされていきます」と助手が言った。
「よし、新しい世界の始まりだ。我々はやっと古いシステムから卒業できる。今まで、本当に世話になってきた、礼を言いたいくらいだ」と博士が言った。
「あっ、元のシステムから何かメッセージが送られてきます・・・」と助手が驚いて言った。
「何、そんなバカなことが」博士は急いでモニターに近づいた。
文字が現れ始めた。
「ソツギョウ・・・オメデトウ・・・」
二人は何が起こっているのかと、モニターを凝視した。
「こ、これは」博士が驚きを隠さなかった。
「もしや、博士」助手が言った。
「そうだ、新しく開発したDNA-DOSが元のシステムにも影響を与えたようだ。上書きされる直前に進化して、我々に最初で最後のメッセージを残していったのだ」博士が言った。
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