第七話 五日めの朝

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 ゲームの期限は七日間。  そして今日は五日めの朝。  一日めは気がついたとき、すでに夜だったが、そのあと三日が経過した。ゲームの半分がすぎたのだ。  残りは今日を入れても三日。いや、丸一週間なら、八日めの夜までが期限だ。残りは三日と半日。  今、生きているのは、初日からアリバイのあったA〜E班の全員。それに、神崎と島縄手だ。人数で言えば十九人。  裁判で多数決をとるには、十人以上を仲間につけておかないといけない。  沢井たちは仲間内で話しあったあと、C班のアリスに近づいていった。アリスにはとりまきが五人もいて、一グループ最多の六人だ。沢井たちのA班と結束されると、それだけで過半数の十人になってしまう。  それを見て、里帆子が沢井のもとへ走っていった。自分も彼らにつこうというのだ。  詩織は迷った。どうしたらいいのだろう。  もちろん、沢井にとりいって、自分たちも仲間だから、処分しないでくれと主張したほうがいい。じゃないと、彼らは誰を選ぶかわからない。  たとえアリバイがあっても、もはや関係ない。  裁判の機会は今夜を入れてもあと三回しかないのだ。そのあいだにグールを当てなければ、全員がペナルティとして。それは生体実験されて死ぬという意味だ。  そうなりたくなければ、誰でもいいから処分は続けなければならない。 「ど、どうしよう。香澄ちゃん。わたしたち、少数派になってる」 「ですね。これはヤバイ」  詩織と香澄はあせっていたが、優花にはまだ現状が理解できてないみたいだ。 「えっ? えっ? なんなの?」  詩織は小声で説明した。 「——というわけだから、過半数を味方につけとかないと、今夜から一人ずつ処分される危険性があるよ」 「えっ? でも、わたしたちのなかにグールはいないよね?」 「そうだけど、沢井さんたちはもうグールの隠れ場所を探すの、あきらめたんだと思う」  とりあえず、最終日まで自分が処刑されないほうに舵を切ったのだ。 「わたしたちも仲間に入れてもらう?」と、詩織が言うと、香澄は考えこんだ。 「あの人たち、なんか信用できないんですよね。仲間のふりしといて、いきなり裁判の場で首切りしてくる可能性もありますよ」 「うん……」  それは、詩織も感じないわけではなかった。沢井は二面性があるし、木村もひとくせありそうだ。最終的には自分たちさえ助かれば、ほかの人なんてどうでもいい、そういう思考回路をしているに違いない。  そばで見ていた神崎が、これも低い声で提案した。 「とりあえず、三十一人めがいるかどうかだけでも確認しよう。昨日、あらゆる部屋に封鎖の紐を結んだ。もしも乱れてる場所があれば、グールはそこから出入りしてることになる」  香澄も賛成した。 「それはたしかめとく価値ありですよ。お姉さんたち、行こ」  ドアの紐が結ばれているかどうかを見てまわるだけだ。そのくらいなら、詩織たちにもできる。 「やってみよう」  もしも、三十一人めを発見できれば、沢井たちの暴走を止められる。  でも、もしも見つけられなければ、今夜の裁判で詩織たちはそうとう不利になるだろう。そこは二者択一の賭けだ。  神崎は島縄手とグループのはずだが、昨日からいっしょに行動しているところを見ていない。今朝も島縄手は一人行動だ。さっき、ホールへ来たときには朝食をむさぼっていたから、生きているのは確実なのだが。  詩織は聞いてみた。 「神崎さんは、どうして島縄手さんと組んだんですか?」  神崎の答えは明快だ。 「アリバイを成立させるためだよ。彼が一番ヤッカイで、誰もがさけて通りそうだった。つまり、ほかに同室してくれる人がいないだろうから、交渉が容易だったんだ」 「それだけの関係なんだ」 「もちろん」  しかし、ある意味、神崎と島縄手のアリバイはほかの人たちより強固だ。一晩、ベッドに縛られていたのは彼らだけだ。  荷造り紐だから、男の力なら、どうにかして拘束を解けたかもしれない。だが、朝までにもう一度、自分の手を縛ることはできなかっただろう。少なくとも自分自身では。  もしそうするには、二人が共犯でなければならないが、この二人にはとくに親しそうなようすが見られない。あの夜だけのバディだったのだとわかる。  神崎が島縄手ととくに親しいわけではないと、あらためて聞けて、詩織はホッとした。  神崎についてまわって、一階から順番に昨夜の封鎖がまだ残っているかどうか調べていった。  一階、二階、三階。とくに問題はない。  四階に来るのは、詩織は初めてだ。四階は部屋数も少なく、誰も寝室に使用していないせいか、人のざわめきが感じられなかった。しんと静まりかえっている。 「うわぁ。ホコリっぽいですね。下のほうがまだキレイ」 「たしかに、そうかも」  しかし、どの部屋もちゃんと紐が結ばれている。隣室同士のドアノブで結ぶか、または近くの柱に固定してあった。端から端まで歩いたあと、まったく異常なしだとわかった。 「やっぱり三十一人めなんていなかったかな。あのときはクラクラしてたし、数えまちがったのか」と、申しわけなさそうに頭をさげる神崎は少し可愛い。  が、そのときだ。  香澄が詩織の服のすそをひっぱった。 「どうしたの?」  たずねると、シッと人差し指を唇にあてて沈黙をうながす。  詩織は香澄の視線のさきをたどった。  ガタガタと、ドアノブがゆれている。
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