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終愛の花束を
昔から料理は好きだった。人に振る舞えば喜ばれたし、何より生きてく上で無駄になる事が無い。
そんな単純な理由で私は料理の道へと進んだ。
元々は地元のファミレスで働いていたのだが、偶々来ていた三つ星レストランのオーナーにスカウトされ、その人の店で働く事になった。
「香草パスタ2つ、ステーキとポロネーゼもいけるよ!」
私は少年の様に小さな同僚の白妙にそう呼びかけて、両手に2つずつ持ったフライパンを動かす。
サウナの様な熱気を帯びた厨房はまさしく戦場の様で、今となってはアレだが、あの頃は食べても食べても足りない位エネルギー消費が激しく、自分で言うのも何だが、道行く男が振り返る程度にはスタイルも良かった。
そのエネルギー消費の激しさも相まって私は仕事終わりには残り物で料理を作り、週2日の休みには白妙と共に各地の料理を食べ回るという完全に料理中心な生活を行っていた。
そんな何気ない休日。その日は白妙が私の地元の料理を食べてみたいと言うものだから地元の大衆食堂や、出店なんかを回っていた。
「ラストはここだな。ここのコロッケパンは下町にしちゃ結構美味いんだよ」
私はそう言ってコロッケパンを2つ頼み、店の前のベンチに座った。
「さっ食べようぜ」
私は白妙を隣に座らせて手に持ったコロッケパンに齧り付いた。
「んーやっぱ美味いなここのコロッケは」
「うん! 確かに美味しい。流石だね」
「そうだろう、そうだろう。俺のコロッケは美味いだろ!」
店の爺さんは腕を組んで満足気に頷いていた。
「本当に美味しいね」
そう笑う白妙だったが、先程からずっとそわそわして落ち着かない。
「……楽しくなかったか?」
私はそう小さく呟いた。結局今日も私の食べたい物ばかりだった。
「え!? 何で?」
「だって、いつも私の行きたいところばっかりだし、今だって何かぼーっとしてるじゃんか、こんな粗雑で自分勝手な女は嫌いか?」
「ち、違う! 違うよ!」
白妙は1つ深呼吸をすると、覚悟を決めた様な神妙な声で言った。
「ごめんね、楽しくなかったとかじゃなくて、緊張しちゃってて。これを君に渡したかったんだ」
そう言って白妙は私の前に跪き、懐から取り出した小さな白い箱を開けた。
「え、これって……!」
「うん、僕と結婚を前提に付き合って頂けませんか?」
箱の中に入っていたのは銀色の綺麗な指輪だった。
「当たり前だろ……!」
私は周りの野次や歓声には目もくれず、感情のまま白妙に抱きついた。
「わっ! ちょっと、こんな所で」
「めでてぇなぁ! よし! おっちゃんが記念に写真を撮ってやる。待ってろ、今カメラ持ってくっから!」
爺さんはそう言って古いポラロイドカメラを持って来た。
「ほら、2人とも俺の店の前に立って、そうそう、いくぞー! はい、チーズ!」
それから私達は1年ほど付き合ってから早々に結婚した。
結婚後の生活は2人同じ職場なのも有り、忙しかったものの、以前と変わらず休日には2人出掛けたり充実した日々を送っていた。
そんな結婚生活も2年程経ち、2人で暮らすのにも慣れて来た頃の事だった。
「……!」
休日の昼過ぎ、私はトイレから出ると、一目散にリビングに居る白妙の元へ駆け足で向かった。
「どうしたの? そんなに急いで」
白妙は持っていた書類を鞄に仕舞い、昔からの変わらない優しい笑顔でそう聞いてきた。
「できたんだ」
「出来た? 新しい料理のレシピかい?」
「違うって! 子供! 私とお前の子供だよ!」
私は検査薬を見せつけたまま不思議と涙を流していた。
「そっか……僕達の子供」
白妙も呆然とした表情のまま静かに涙を流していた。
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