第一章 新たなる希望(妄想女子の正しい拾いモノ恋愛セミナー)

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2問目 さあ、ここで問題です。  目の前には、ようよう拾ってきた貴女の好みどストライクのイケメンが、その整った顔を天井に向けたまま気を失ったように部屋の玄関入ってすぐの細く狭い廊下に、爆睡したまま身を横たえています。  この殿方が、殺人犯や強盗犯や強姦魔や変質者ではない確率はどのくらいでしょうか?  貴女は、この殿方が目を覚ます二十分前までに答えなさい。    ……。  っハイ、その通り。  それは答えではありませんが、質問には答えましょう。  そうです。  最初に言ったように、ちゃっかり拾ってきてしまいました。  ……いや、思わず?  貴女は『もったいない』という素晴らしい日本語をご存知ありませんか? 知っている? だとしたら、分かりますよね。分かって頂ける筈です。  ここまで運ぶのは並大抵の労力ではありませんでした。自宅が二階だったので悩みました。三階なら諦めもつくでしょうし一階であるならば、悩みはしなかったことは間違いありません。そうであればこの殿方に気づきもしなかったかもしれませんからね。果たして部屋が二階である、それが良かったのかどうかは分かりません。すでに拾ってしまったんですから。ともかく火事場の馬鹿力というものは火事が起きていない時にでも発動するものと得心する、そんな良い機会でもありましたがおそらく二度と同じことをすることはないと断言できましょう。そもそもイケメンがそうそう道に落ちていることも無いですからね。もったいないことこれ然りです。  もちろん、拾う前には確認を致しました。  どうやって?  人間もまた、動物です。  質問形式でいきますか。  動物がすることとは、何でしょうか?  ……。  っハイ、これまたその通り。  匂いを、嗅ぐ。  かと言ってこれ見よがしに匂いを嗅いではいけません、と誰しもが物心つく前の幼い頃より躾けられています。人間は動物であるとはいえ、外聞を気にしてマナーに雁字絡めにされた生き物ですから、はしたなくて見っともない真似は大手を振って出来るものではありません。  しかし、夜に落ちているイケメンは例外です。誰もいないのを前後左右確認した後、くんかくんかと匂いを嗅ぎ、そこに異臭があれば速やかにその場を離れ、何事もなかったかのように澄まして淑女の顔を取り繕う必要がありますが、さて。  ……うーん、素晴らしい芳香。    どうやら泥酔しているわけでもないようで体内にあるアセトアルデヒド分解酵素が働いている臭いもしません。薫るのはとても深いウッディ系のベチバーの香りとこの殿方の体臭が混じった素晴らしい芳香。堪りません。永遠に嗅いでいられる自信があります。つまり本能がわたしの遺伝子の対極にあると告げているのですよこの殿方の遺伝子は。  髪型は顔によく似合うナチュラルショートで着ている服はさりげなくもトレンドをがっちり押さえた、つまり外見にまで隙なく気を使うレベルの高いイケメンとくれば、街ですれ違うだけでご馳走サマと両手を合わせたくなるわたし的にはそうそうお近づきになることもない、横目で見ながら涎を垂らす人種であるのは間違いない。見たところ目立った外傷もなく、スヤスヤと規則正しい寝息を立てて夢をご覧になっていらっしゃるのか、ちらと笑みを浮かべたりしている様は、いとをかし。  階段の真ん中でお行儀もよろしく両手を胸に乗せて寝ていらっしゃるのを運ぶのは、引き摺る一択しかありませんでした。  途中で目を覚ます?  そうして頂けたらこのような苦悩はなかったのですが、いかんせん寝が深いようで階段に、がっつんがっつんとその長い御御足が当たろうとも狭い玄関入り口の脇で頭を打つけようとも、目を覚まさず今に至るわけであります。  さて、そうは言っても実を申し上げれば、わたしは酔っていますし疲れてもいて、これ以上は頭が働きません。何しろ時計は午前三時をまもなく過ぎようとしています。  部屋の中まで引き摺り、しばらくウットリと眺めておりましたがもう限界です。  おやすみなさい。 ここで一旦、回答を締め切らせて頂きます。
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