第一章 新たなる希望(妄想女子の正しい拾いモノ恋愛セミナー)

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第一章 新たなる希望(妄想女子の正しい拾いモノ恋愛セミナー)

1問目 さあ、ここで問題です。  目の前には、雨に濡れた階段を踏み外して腰を打ちつけ痛そうにして蹲る残念なイケメンと、階段を見上げ大きな荷物を抱えて大儀そうにため息をつくお年寄りがいます。  貴女は、どちらに手を差し伸べますか?  0.01秒で答えなさい。  ……。  っハイ、残念。  少し、悩みすぎてしまいましたね。  まぁそうでしょう、そうでしょうとも。  誰しも色んな打算的思考が浮かび上がるものです。  残念なイケメンを助けてお礼がてらお茶でもいかがですかと連絡先を交換するとか、そうでなくとも次に何処かでばったり出会い、おや貴女はいつぞやご親切にして頂いたあの、と挨拶を交わしこれもご縁かと連絡先の交換をしませんかとかってお近づきになれるかもしれんし。  いや待てヨ。  お年寄りに親切にしているところを誰かが見て目に留めてくれないか、いやあわよくばこのお年寄りが孫婿探しをしている大富豪でひょっとしてこの些細な親切からウェディングベルの音と共に白い鳩が青い空に羽ばたくかもしれんよね。  とか、思っちゃいましたか?  っハイ、これまた残念。  残念なイケメンはお近づきになる良いチャンスでありますが手を差し伸べたところで男の面倒臭いプライドはエベレストよりも高く、なんなら構想中の宇宙エレベーターに匹敵するくらいあるでしょうから、お尻に水濡れの跡もくっきりこのような状況で頬を軽く染め、ありがとうの言葉すら期待するだけ無駄ってもんです。  おそらく目も合わさず差し出した手は空を斬り、そそくさと立ち上がると何ごともなかったかのように汚れ滲みのある形の良い尻を振りながら人混みへと消えてゆくのですよ。  では、お年寄りを助けるのが正解かと聞く貴女は、少し痛い人ですか?   階段を見上げてため息をついているからといって荷物が重いわけでも階段に気遅れしているのでもなく、このタイミングで単に嫌なことを思い出しただけかもしれませんし、これからその荷物を持って向かう先に気掛かりなことがあるだけなのかも。そもそも荷物が大きいからといって重いかどうかは分からないし、見ず知らずの他人に荷物をハイどうぞと預けるようなお人好しがこの世に存在しますかね。  素敵な誰かが親切にしている貴女を見ているかもしれないって、そこに懸けるのですか? 駆けるのは夜だけにしておいて下さいってそれもアレですが、貴女の親切の押し売りは、お年寄りの結構ですと言う遠慮に似せた拒絶と、貴女の引っ込みのつかなくなったそんなこと仰らずに、との押し問答で変に注目を浴びるだけです。大富豪? まさか。良い歳をしたそのような稀有な人が一人でこんなところで大きな荷物を抱えている確率は、おそらく宝くじを当てるより低いですよ。  さっさと正解を言え?  ……正解は、どちらも見て見ぬ振りをするの一択です。  だったらどうしてこんな珍問答を続けているのかって?  あ、やっぱり聞いちゃいます?  実は今、迷っているんですよね。  自宅のあるマンションとはいえ古い三階建てエレベーターなしの階段の部屋に向かうその途中ど真ん中でスヤスヤと健やかに眠っていらっしゃる御仁を目の前に、整ったその顔をじいと眺めながらこの見ず知らずの殿方を拾うか見捨てるか。 貴女なら、どうします?
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