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一
彼此六十年ばかり前になるだろうか。
生家のある静岡を離れ麹町にある下宿から戸塚の大学に通っていた頃
その頃のおれは授業なんかはろくすっぽ受けずに本庄という二歳上の先輩のアトリエに入り浸っていた。
本庄さんは男女問わず人気があった。硬派でな性格。スラリとした高身長に二枚目俳優のよう整った顔付き。更には由緒正しい家系で血縁には軍人や政治家などお堅い職の人間ばかりだという。当然この男も本郷の大学に在籍しているのだが、興味のあるいくつかの講義以外はろくに出ていないらしい。日がな一日桜木町にあるアトリエでやれデッサンだ油絵だに勤しんでいた。
そんなアトリエには常時、反対を押し切り画家を志す若者が二、三人ほど寝泊まりしている。本庄さんはと言うとアトリエに寝泊まりするときもあれば何日も顔を出さないときもあった。私は絵描きを志していた訳では無いがよく顔を出しそこで美術雑誌の翻訳やレコード鑑賞などをしていた。そんなことをしていると当然、入り浸っている画家志望の若者とも仲良くなり時折酒などを酌み交わし朝まで談笑した。
そんな頃だった。
おれが的場と出会ったのは。
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