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何で絵のモデルを頼まれたのかというと、濱田は美術部に所属していたらしく、卒業制作の為とのことだった。
推薦枠もらってるから受験勉強に時間さかないといけないわけでもないし、夏の大会を最後にもう部活も引退していて暇だからまあ別にいいかと軽い気持ちで引き受けた。
――……が。
「じゃあ、脱いで」
美術部の活動が無い日の放課後さっそく美術室に呼ばれ、椅子を一脚俺の前に置きながら何でもないことのようにそう言われた。
(――え?)
……ウソだろ。まさかモデルってヌードなのか?
ちょっと待て。これって卒業制作って言ってたよな。ってことは、俺の愚息は図らずも全校生徒にさらされてしまうってことか!?
イヤー!! お婿にいけなくなるーー!!
「……濱田。ごめん。俺そこまでチンコに自信ねんだけど……」
椅子の前に立ち尽くす俺の悲痛な声が聞こえたのか、濱田がイーゼルを準備していた手を止め驚いたように顔を上げた。
「あ! いや、悪い! ちがう、上だけ。上半身だけ脱いで欲しいんだけど、……ダメ、か?」
俺の方を振り返り慌てて言葉を足す。
最後は口ごもるようにつぶやいた顔は、見て分かるくらいに真っ赤になってしまって、あれっと思った。
案外無表情ではないのかもしれない。
焦りながらも伺うようにお願いされて、上半身裸が常の部活やってた俺はそれくらいなら特に抵抗はないので、コイツの要求を受け入れた。
それよりこの部屋けっこう寒いんだけど、ここで脱ぐの?
さっきとは違う理由で制服を脱ぐのをためらう俺に気付いたのか、もう一度 “悪い” と言って濱田は奥の準備室へ向かい、しばらくして小型のヒーターを持って出て来た。
椅子の横にそれを置くと、コードを引っ張ってコンセントに繋ごうとするも全然長さが足りてない。
「あ……、届かない」
そう洩らして再び準備室に引っ込んでいき、今度は延長コードを手に戻って来てヒーターとそれを繋いでいる。
なんか一見そつなく冷静に行動しそうなタイプに見えるのに、焦って慌ててるのがけっこうどんくさくてちょっと笑えた。
延長コードすげえからまってるし。
(ふうん。濱田ってこんなヤツなんだ)
卒業間近にして初めて知った、喋ったことすらほとんどなかったクラスメイトのことが、何だか少し新鮮に思えていた。
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