開廷

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★ 事件は高校生活最後の日に発生した。 卒業式が行われた後の、下校開始の時分だった。学校の校庭には別れを惜しむ同級生たちが集まっていたが、被害者の丸山幸一はその場にいなかった。 同級生の証言によれば、丸山は三年生に進級した頃から成績を落とし、自信をなくして家にひきこもるようになったという。 元来成績は優秀で、一流の大学だけしか受験をしないと表明していた。だから玉砕し浪人が確定した。 プライドが傷つき、卒業式に顔を出せなくなったというのは納得できる。 では、丸山はどこで命を奪われたのか? 「被告人の浜崎雄太は、学校からほど近い路上に停められた車中で、丸山幸一の首をナイフで刺し殺害した。事実に相違はありませんか」 確固たる証拠は、死体が見つかった車のドライブレコーダーに残された映像だった。 私が確認したところ、丸山はひとりで車を運転しており、浜崎の姿は犯行の直前まで映っていなかった。 突然、浜崎が後部座席から飛び出し助手席に乗り移る。手にはナイフが握られていた。 丸山は驚いて車を急停止させ逃げようとした。が、浜崎はナイフを振り上げ、一気に丸山の首を切りつけた。 浜崎が丸山を殺したのは間違いないはずだ。だが、浜崎は尋問しても明確な動機を口にしなかった。ただひとつ、同じことを証言するばかりだ。 「確かに僕は幸一を殺しました。だけど、皆が言う殺人犯はここにいる僕ではありません」 理解不能な返事に法廷の空気が張り詰める。
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