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浜崎は深い溜息をついた。私は浜崎に尋ねる。
「つまり、君の言い分は過去に戻って幸一を殺し、凄惨な未来を変えたということなんですね」
「はい。それこそが、僕が幸一を殺した動機でした。僕はそうして同級生たちと幸一の両親を守ることができました。せめて救えなかった幸一以外の人だけでも、救わなければと思ったからです」
つまり彼が言うには、丸山幸一を殺害したのは、異なる時間軸の浜崎雄太ということなのだ。
けれど、その言葉を信じる者などいるはずがない。
「そんなの、言い逃れのための作り話だ! 息子を殺したくせに、自分だけは助かろうなんて考えやがって!」
丸山の父親は怒号を飛ばす。浜崎に浴びせられる罵声は止むことを知らない。
「……やっぱり信じてもらえないんですね。こんなに覚悟を決めて頑張ったのに」
頑張った、という一言は父親をさらに激怒させた。
「何を頑張ったっていうんだ! 虚言を考えるくらいなら死んで息子に詫びろ! 死刑になれ!」
浜崎は崩れそうな表情で涙を浮かべる。
「そうですか。僕のことを信じてもらえないなら、もういいです。これから塗り変えた過去を戻しに行きますから」
すると浜崎は左の手のひらを大きく広げ、天井に向かって高々と掲げた。
それは過去に戻る能力の発動を意味していた。
変えた世界をリセットする、二度目の能力発動。けれど、それは決してさせてはいけない。
私は彼のような人間を救うために、裁判官になったのだ。こんなに優しく悲しい青年に、罪を着せてはならない。
私は立ち上がりガベルを机に打ち付ける。会場のすべての視線は私に釘付けになった。
「静粛に! この犯罪、裁くべきはひとにあらず!」
私は左手を大きく広げ、高々と掲げて天井に向けた。そして拳を握りしめ、ぐっと胸元に引き寄せる。
私はついに、自分に隠された能力を発動させたのだ――。
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