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開廷
刑務官に連れられて法廷に姿を現した被告は、悪意の気配を感じさせない純朴そうな青年だった。
浜崎雄太、十八歳。彼はこの場にそぐわないほど、さっぱりとした表情をしている。
彼が証言台に立つにいたった理由は、同級生を刺殺した殺人容疑。それも被害者は丸山幸一という名の、彼の親友だった。
浜崎は法廷をぐるりと見回すと傍聴席で視線を止めた。冷たい空気が漂う傍聴席には、三年間をともに過ごしてきた同級生と被害者の両親がいた。マスコミ関係者の姿も見られた。
被害者である丸山幸一の両親は、鬼夜叉の形相で浜崎をにらみつける。けれど浜崎は安堵した様子でかすかに笑みと涙を浮かべた。
その場にそぐわない反応は、彼を猟奇的な殺人犯だと思わせしめるものだったが、それもいたしかたないことだ。
なぜなら、この事件の真相は、あまりにも奇妙で理解しがたいものだからだ。
だから私はついに、彼こそは自分が裁くべき相手だと確信した。
そう、この殺人事件は彼が自己犠牲の果てに起こしたものに違いないのだ。
裁判長である私は、木槌を振り上げ、腹の底から声をあげる。
「では、これから開廷します。被告人は前に出てください」
優しき彼の罪を問う裁判が、今、始まる――。
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