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しばらく経って、猫の名前はくつしたに決まった。
「ねこしゃん、くつしたをはいてるみたい」
と、名付け親が言う通り、前脚はソックスを履いているように白い。見た目通りの名前は、仔猫にぴったりで、もうそれ以外の名前が浮かばないほど。
「あゆはちゃん、こんにちは。またお姉ちゃんと遊ぼうね〜」
「うん、あそぼーっ! あゆは、まりなおねぇちゃんとあそぶのすきーっ!」
数時間前、姉夫婦が買い物に行って、あゆはを預かったから遊びに来ない?と、尚也に誘われた。彼のマンションに行く前に、ふたりに欲しいものがないか訊ね、コンビニで簡単な差し入れを買った。
冷蔵庫にプリンを入れていると、くつしたと戯れるように遊んでいたあゆはちゃんが急に部屋を見回し始めた。そして、とてとてと私に近づき、冷蔵庫を一緒に覗く。
「ねぇ、まりなおねぇちゃん、きゅうりしゃんは?」
「え? きゅうり?」
私が冷蔵庫を閉めると、尚也が猫じゃらしや魚のぬいぐるみが入った箱を抱えて寝室から出てきた。
「きゅうりはもういないよ。食べちゃったから」
「たべちゃたのー!?」
あゆはちゃんはびっくりしたように声を挙げて、ケラケラ笑った。
「うん。だから、くつしたと遊ぼう。その後、茉里奈が買ってきたプリンを一緒に食べよう。他のお菓子もあるぞ」
尚也はテーブルの上にある幼児用のソフト煎餅を指さした。顔も鼻も丸いキャラクターはあゆはちゃんが好きなヒーローで、最近は決めセリフを真似している。
「くつしたしゃーん、こまっていませんかぁー、あゆはの持っているおしゃかなしゃんあげまーすっ!」
魚のぬいぐるみをちぎってあげるフリをして、くつしたがにゃあと返事をした。もみじのような小さな手で、くつしたを撫でながら、あゆはちゃんは反対の手で私を招く。
「ねぇ、ねぇ、まりなおねぇちゃん、こっちにきて、ねこじゃらし、しよー」
「いいよー。でも、お姉ちゃんは猫ちゃんに触っちゃうと目が痒くなったり、咳が出ちゃうから、少し離れたところで遊ぶね」
「うん、分かったーっ!」
猫じゃらしを持って、あゆはちゃんに近づくと、
「茉里奈、……無理はしなくていいから。空気清浄機の近くで居てもいいし……、その……」
と、申し訳なさそうな顔。
「尚也、気を使ってくれてありがとう。尚也が猫好きなのは今に始まったことじゃないから、もう慣れっこだよ」
「……そう言ってくれたら助かる。俺は茉里奈のそーゆーところが好き、かな、ははっ」
「あーっ! なおにいちゃん、まりなおねぇちゃんにすきすきしてるーっ!」
私は取り繕うように手を振って、恥ずかしいなぁ、とあゆはちゃんに向いた。
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