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最後のシチュー
私は久しぶりに佐川さんと暮らした家に帰ってきた。
あのあと、石橋社長は私を脅して利用したことにし、庇ってくれた。
この豪邸にはもう、私しか住んでいない。
久しぶりに帰ると、土地の権利書と建物の所有権が記された書類が置いてあった。
書類には私の名前。そして、書類を持ち上げるとメモがひらりと落ちた。
『私の遺産だと思ってほしい。私のすべてをお前に譲る。』
メモにはそう記されてあった。
私はあの時、佐川さんは自分だけ助かろうとしていたのかと思った。
今までのことを考えたら、そんなわけないのにね。
私の人生は間違いばかりだ。
大切な妹にも、もう嫌われただろう。
私は一人になってしまった。
メモを眺めていると、裏にも何か書いてあることに気づいた。
『○月○日、○○時、バーオリオンへ。夏木秋菜がいる。私の最後の願いだ。』
日付は…今日…?
私はすぐに支度を整え、バーオリオンへ向かった。
…なんて声を掛けたらいいだろう。
どんな顔をして会えばいいだろう。
秋菜は許してくれるのだろうか。
私は人殺しの片棒を担いだ犯罪者。
そしてランディアの敵。
でも、佐川さんの最後の願いを私は叶えたい。
そして、私は心と人生を取り戻したい。
タクシーはオリオンの目の前に停まった。
中から栗林繊維でプレゼンをした二人が出てきた。
このバーには本当にランディアの人たち、そして秋菜がいる。
私は覚悟を決め、扉を開けた。
扉を開けた瞬間頭の中は真っ白になり、何も考えられなくなった。
目の前には、きょとんとした顔の秋菜。
ふと、小さいころ秋菜を探し苦労の末見つけて声をかけた時のことを思い出した。
なんて言ったのかは覚えていない。
でも秋菜は泣きながら笑って、抱き着いてきてくれた。
ありがとう秋菜。ありがとう佐川さん。
私はもう一度、ここからやり直してみます。
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