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またあの小娘がいる。
私が昼食を購入するタイミングには、必ずこの小娘がいる。
気味が悪かった。いつ何が起こっても、笑顔を崩さないこの小娘が。
私は唐突にこの小娘の笑顔を崩したくなった。
佐川『タバコ。』
私は、わざとこの小娘が判断に困る注文の仕方をした。
この小娘が困り果てる顔を見たかったのだ。
店員『いつものでよろしいですか?』
私の意図とは裏腹にこの娘は私の注文を記憶しており、難なくことを逃れた。
屈辱だった。私の思い通りにならない人間は存在しなくてよい。
当時の私は本気でそう思ったものだ。
佐川『コーヒー。』
どうしてもこの事実を受け入れられない私は、更なる嫌がらせを仕掛け、反応を待った。
店員『今の時期はホットコーヒー一択ですよね!すっきりした後味のアメリカンがお勧めですよ。』
はらわたが煮えくり返る思いだった。
この小娘は、私の嫌がらせを嫌な顔一つせず払いのけたのだ。
一生懸命用意したホットコーヒーを私は受け取った。
その熱いコーヒーを、私はその店員の顔面目掛けてぶちまけた。
うわあ!
周りの人間は動揺し、私に注視した。
周囲の人間は私の思い通りに動いている。
そしてそう、この小娘もと思った。しかし。
店員『お怪我はありませんか?服は汚れていませんか?』
この娘は熱いコーヒーをかけられたにもかかわらず、私の心配をしたのだ。
ほかの店員が110通報しようとしたが、この娘は大丈夫だからとその通報を止め、逃げるように退店する私へ声をかけた。
店員『またのご来店をお待ちしております。』
このとき、私は生まれて初めて、罪悪感に苛まれた。
罪悪感に苛まれた私はこの夜、眠りにつくことができなかった。
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