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あの時ほど絶望したことはなかった。
夏木は、何も見つからなかったのが証拠だといった。
何を言っているのかわからなかったが、私が聞く前に石橋社長がどういうことだと夏木に聞いた。
夏木の話によると、ランディアの作るタイヤには内側にシリアルナンバーが刻印されているらしい。
そしてそれは、裁判後退廷する鹿島社長が夏木に託した切り札であったのだ。
…敵わない。あの鹿島という男は最初からすべて見抜いていたのだ。
鹿島さえ排除すれば総崩れになると思っていた。
しかしその鹿島はたった一つの切り札を社員に託し、その切り札で我々を一刀両断した。
更には栗林社長まで現れ、私と目も合わせることなく本物のエコライフを見抜いた。
完敗だ。もう石橋社長と麗美は言い逃れができない。
私だけでもなんとかここを凌ぎ、麗美を助けることはできないだろうか。
私はそのことばかり考えた。
しかし、ランディアの人間が我が小島運送の運転手を連れてきた。
その運転手の証言で、私は言い逃れができなくなった。
私はこの時のことを覚えている。
情けなくも前回と同じ捨て台詞を吐き、その場から立ち去ったのだ。
私にはまだ一つだけやらなければならないことがある。
私はもう助からない。いずれ逮捕されるだろう。
その前に、なんとか。鹿島社長に…。
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