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私は頭を抱えた。
鹿島社長は我々のせいで拘置所にいるのだ。
伝えたいことがあっても伝えることができない。
私は仕方なく、鹿島社長の右腕である藤木を呼び出した。
藤木は私に怒りをぶつけてきたが、当然である。そのくらいの覚悟はできていた。
私はもうすぐこの短い生涯を終えるのだ、最後の役目を果たさなければならない。
佐川『あなたが言うことは全て正しい。私は罪を受け入れる。死ぬ覚悟もできている。』
私は必死に、藤木が話を聞いてくれるよう尽くした。
藤木『人が変わったようだな。死ぬ前に何がしたいんだ?』
藤木は一通り私に怒りをぶつけた後、話を聞く体制を整えてくれたのだ。
佐川『まず、狩野は皆が思っているような冷酷な人間ではない。』
私は麗美のことを…
藤木『だからなんだっていうんだ?俺たちが舐めた苦汁は消えないんだぞ。』
藤木の言うことは正しい。だが、麗美だけでも…
佐川『狩野を変えてしまったのは私だ、だからケジメをつけたいのだ。』
私はいつしか麗美ために生きていたのだ。この仕事だけは失敗するわけにはいかない。
この仕事は、仕事ができた私の人生の中でも一番難しい仕事だった。
藤木『ケジメ?どうしたいんだ?』
藤木は私の真剣な表情を見て、話を聞いてくれた。
そうか、これが真心というものか。
佐川『夏木は、狩野の実の妹だ。狩野は私のせいで変わってしまったといったが、そのころから妹を憎み復讐するために生きてきた。』
私はこんな年齢になってもまだ涙はでるのかと驚いたが、藤木に必死に話した。
藤木『わかりましたよ。ちゃんと聞きますからゆっくり話してください。』
藤木はそう言い、憎まれ口をやめしっかりとした敬語で私と向き合ってくれた。
藤木『夏木が狩野の妹だということは知っています。あなたが退室した後、狩野が自ら夏木に謝罪していましたから。』
ほんの少しだけ、麗美の心はもう戻らないかもしれないと思っていた私は、心の底から安堵した。
変わってしまった麗美が、素直に夏木に謝ったのだ。
佐川『どうか、麗美と夏木が仲直りするチャンスを与えてほしい。』
私は懇願した。本来は鹿島社長に伝えるべきだと思ったが、この男なら聞いてくれるだろう。
藤木『当人同士の問題ですから我々は見守ることしかできませんが、わかりました。場を作ることだけは協力させてもらいます。私が指定する日時に、狩野をこのバーに来させてください。私はその日無理やりでも夏木をバーに連れて行っておきますから。』
藤木は窓の外を見ながらそう話し、約束をしてくれた。
今の麗美ならきっと大丈夫。上手くいく。
ありがとう藤木君。これで私は安心して逝ける。
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