横顔のトークルーム

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 火災と三つの焼死体。警察は放火と断定し、殺人事件だと発表した。被害者は全焼した小屋の持ち主、農場の経営者夫婦と社長の弟であるその専務。容疑者は外国人従業員の男だった。  私はそれを、土曜日の夜の地上波初放送の映画の中で、興をそぎ落とすテロップの形で知ったのだ。 『それは残念でしたね』 「全くだ。主人公が気配を感じて振り返った先にテロップがあったんだ」  君は苦笑いを浮かべている。きっと私も同じような顔をしている。  容疑者は逃亡を謀り叶わず、職質により逮捕された。殺害理由は金銭トラブルで、ごくごくありふれた事件だった。 「しかし、当事者にはありふれた事件ではなかった」 『当事者というと』 「被害者の専務の妻だな」  君は眉根を寄せて痛ましげな顔をする。  私も同じ顔をしていただろう。家族が突然亡くなった。元気に送り出した背中が、正視に耐えない姿となって帰って来た。幸い私は想像でしかそれを知らない。けれど、辛いことだと思うくらいの共感性は持っていた。  数多溢れる記録映像の中で、専務の妻は常にハンカチを握っていた。目を赤くし、鼻を赤くし、涙声が地声であるかと思うほどに。
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