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――外国人を雇うと聞いて嫌な気はしていたんです。けれど私には仕事のことは判りませんし、義姉には杞憂だって笑われました。この十年、杞憂だったとようやく思えるようになったのに。
君は私の言葉に視線を落とす。唇をきゅっと引き結ぶ。
「彼女の主張は単純な差別だ。言葉が判らない、習慣が違う、彼女の慣れ親しんだコミュニケーションが通じない。彼を知らない」
君は言葉を返さない。ただ先を促すようにゆるくゆるく首を振る。
記録映像には町の人々のインタビューも残されていた。
――怖いわねぇ。嫌だなぁって思っていたのよ。
――何考えてるか判らんしな。
――いつも汚い恰好で。
――女の子とよく一緒だったね。
――女の子、嫌そうな顔してたのよ。脅されてたんじゃないかしら。
君は視線を落としたままだ。眉根を寄せる。口角が下がる。涙は無くとも悲しみが伝わってくる。
そして君らしいとも私は思う。怒るより悲しみに振れるところが。
『弁護する人はいなかったのですか?』
「記録の中ではね。見つけることが出来なかったんだ」
外国人従業員は複数いたはずだったが、彼らの言葉は残っていない。経営者夫婦の一人娘の証言は探し出すことが出来なかった。
「娘は当時高校生で、隣県の高校に通っていた。下宿生活をして、週末だけ帰って来ていたらしい」
『高校生で』
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