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新着ニュースに目が留まる。本文を開いたとしてもたった七行で終わる記事だ。息を飲み込み息を吐く。ぎしりと椅子が音を立てる。もう一度重い息を吐き出して、私は物書き机を離れる。
キッチンに立つ。冷蔵庫の缶ビールへと手をかけて、ためらった手はドアを閉じる。埃を被ったブランデー瓶を取り上げて、惜しむ気も無くグラスへ注ぐ。せめてもの良心とばかりに最後にひとかけ氷を浮かべた。
物書き机でタブレットは、政治、経済、芸能ゴシップ、ゲームに漫画、『世の中』の関心高いあらゆる事への賛成反対同意不同意、意見溢れるSNSを表示している。グラス片手に発言欄へと手を伸ばし、私は結局アプリを閉じた。
ブランデーをちびりと嘗める。広がる香りを味わいつつ、ため息と共に汎用アプリをタップする。君が映るまではほんの数秒。
『こんばんは』
浅黒い肌、太い眉。一目で外国人とわかる濃い顔立ちを緩ませて、君はメインウィンドウで笑みを見せる。カメラに写った私を見てか、問いかけるように首を傾げる。
『どうかしましたか?』
サブウィンドウの中の私は、寂しげな微笑を浮かべる。
「今日も話を聞いてくれるかい?」
君は私の要求を拒否しない。見た目から想像するよりずっと自然な発音で、どうぞ、と私の方を見る。
私は口を開いて閉じて、そして、開く。
「人を三人殺した、殺人犯の話だ」
ゆるく回したグラスの中で氷が軽やかな音を立てる。
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