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guess hitter
部屋の中に無理矢理ミユを押し込んで、ドアを閉める。いつもは塵一つないミユの部屋だが、今日はあちらこちらに服や本が散乱していた。フィギュアが並んだ棚にもいくつか空白がある。
シュンという名前に心当たりはないけれど、きっとよほど大切な人なのだろう。隣人から苦情がくるのではないかと心配になるくらい、ミユは声をあげて泣いている。
「これは洗濯物?」
私が質問すると、ミユは声を止めて一つ頷いた。お風呂場に続くドアを開け、脱衣所に備えつけられた洗濯機の中にパーカーを投入する。
「本はここの棚?」
また一つ頷くミユを見て、本棚の空きスペースに漫画を三冊入れた。
「食事したのはいつ?」
「……昨日の朝」
「冷蔵庫は空っぽ?」
「多分、何かは入ってると思う」
冷蔵庫のドアを開けると、そこには調味料の他に卵とチーズと長ネギ、白ご飯が入っていた。
「おじやなら食べられそう?」
「サキちゃんが作ってくれるなら食べる」
私は戸棚から鍋を取り出して、調理を始めた。泊まったときに何度か料理をしたことがあるから、道具や調味料の場所は知っている。卵はといておき、長ネギは細かく刻んでおく。
ミユはまだすすり泣いているが、もう声は聞こえない。
鍋に水を入れ、沸騰したらご飯を加える。おじいちゃんが元気だった頃、良く作ってくれたおじやだった。ご飯が柔らかくなったら、しょう油とほんだし、黒コショウで味をととのえる。チーズをちぎり、いい感じにのびてきたら卵を投入。くるくるとかき混ぜたら出来あがりだ。
「はい、どうぞ」
茶碗におじやをよそい、テーブルの上に置く。
「お茶も淹れていい?」
「うん」
ミユはもう泣いていなかった。愛用している色違いのマグカップに緑茶を淹れてから、ミユの前に座る。
「いただきます」
しばらくの間、私は緑茶を味わい、ミユはおじやを食べていた。沈黙が気まずくないことが、ミユと一緒にいられる一番の理由だ。
「めっちゃ美味しいね」
「おじいちゃん直伝だもん」
猫舌のミユはゆっくりとおじやを口に運んでいる。
「ごちそうさまでした」
「残りはまた温めて食べられるから」
「ありがとう。ごめんね、わざわざきてくれたのにおじやまで作らせちゃって」
「いいよ、別に。私が料理好きなの知ってるでしょ?」
「私、サキちゃんに甘えてるんだと思う。きてくれるかもって、どこかで思ってたもん。でも、さすがのサキちゃんでもひくかもしれない」
「ひくって、何を?」
「シュンくんの正体を知ったら。お姉ちゃんに話したけど、怒られちゃった。そんなことで会社休んだのかって」
「ミユさえ良ければ、話して。無理にとは言わないけど」
「サキちゃん……」
ミユはまた泣き出しそうな顔に戻ってしまった。
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