guess hitter

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

guess hitter

 部屋の中に無理矢理ミユを押し込んで、ドアを閉める。いつもは塵一つないミユの部屋だが、今日はあちらこちらに服や本が散乱していた。フィギュアが並んだ棚にもいくつか空白がある。  シュンという名前に心当たりはないけれど、きっとよほど大切な人なのだろう。隣人から苦情がくるのではないかと心配になるくらい、ミユは声をあげて泣いている。 「これは洗濯物?」  私が質問すると、ミユは声を止めて一つ頷いた。お風呂場に続くドアを開け、脱衣所に備えつけられた洗濯機の中にパーカーを投入する。 「本はここの棚?」  また一つ頷くミユを見て、本棚の空きスペースに漫画を三冊入れた。 「食事したのはいつ?」 「……昨日の朝」 「冷蔵庫は空っぽ?」 「多分、何かは入ってると思う」  冷蔵庫のドアを開けると、そこには調味料の他に卵とチーズと長ネギ、白ご飯が入っていた。 「おじやなら食べられそう?」 「サキちゃんが作ってくれるなら食べる」  私は戸棚から鍋を取り出して、調理を始めた。泊まったときに何度か料理をしたことがあるから、道具や調味料の場所は知っている。卵はといておき、長ネギは細かく刻んでおく。  ミユはまだすすり泣いているが、もう声は聞こえない。  鍋に水を入れ、沸騰したらご飯を加える。おじいちゃんが元気だった頃、良く作ってくれたおじやだった。ご飯が柔らかくなったら、しょう油とほんだし、黒コショウで味をととのえる。チーズをちぎり、いい感じにのびてきたら卵を投入。くるくるとかき混ぜたら出来あがりだ。 「はい、どうぞ」  茶碗におじやをよそい、テーブルの上に置く。 「お茶も淹れていい?」 「うん」  ミユはもう泣いていなかった。愛用している色違いのマグカップに緑茶を淹れてから、ミユの前に座る。 「いただきます」  しばらくの間、私は緑茶を味わい、ミユはおじやを食べていた。沈黙が気まずくないことが、ミユと一緒にいられる一番の理由だ。 「めっちゃ美味しいね」 「おじいちゃん直伝だもん」  猫舌のミユはゆっくりとおじやを口に運んでいる。 「ごちそうさまでした」 「残りはまた温めて食べられるから」 「ありがとう。ごめんね、わざわざきてくれたのにおじやまで作らせちゃって」 「いいよ、別に。私が料理好きなの知ってるでしょ?」 「私、サキちゃんに甘えてるんだと思う。きてくれるかもって、どこかで思ってたもん。でも、さすがのサキちゃんでもひくかもしれない」 「ひくって、何を?」 「シュンくんの正体を知ったら。お姉ちゃんに話したけど、怒られちゃった。そんなことで会社休んだのかって」 「ミユさえ良ければ、話して。無理にとは言わないけど」 「サキちゃん……」  ミユはまた泣き出しそうな顔に戻ってしまった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!