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隣国の船と合図を送り合いながら、地に落ちたドラゴンの元まで飛空艇を進めて、着陸。
意気揚々と素材回収に赴くリクハルドと船員たち。一方、隣国の飛空艇から下りてきたのはすんなりとした金糸の髪の青年で、リクハルドを見つけると呆れたような声を上げた。
「無茶苦茶やる奴がいると思ったらやっぱりお前か。バラライカ」
「よ。アーロン殿下、久しぶり。わざわざ前線まで来るのか、王太子が」
何か非常に含むところのある物言い。つい先程、自国の王太子の乗る船を力づくで空域から追い出したアルマリネの船員たちは、苦い笑みを浮かべかけたが、気になるのはそれだけではない。
バラライカ。
その名を口にした青年アーロンは、ふう、とため息をつく。
「軍が接近しすぎて一触即発になっていると聞いて、ひとまず竜退治に来たんだ。手こずっていたので、そちらの攻撃に助けられた形だが……、さてあの攻撃はそちらの美しい姫が? あなたが、かの名高い飛空艇姫アッカ?」
竜の解体には加わらず、船から下りて青年たちと向き合っていたアッカに対し、アーロンは爽やかに微笑みかけた。
アッカもまた笑みを浮かべて応じる。
「はじめまして。アルマリネの艦長のアッカです。国境における一触即発の状況は、陛下も案じておられました。話し合いのできる方が前線においでとあらば、交渉事も円滑に進むかと思います。良かった」
「……うん。空賊と聞いていたけど、心映えまで美しく聡明な姫とみえる。機会があれば我が王宮にもぜひ。飛空艇の発着場は完備していますので、空からどうぞ」
胸に手を当てて嘘偽りはないとばかりに言われ、アッカは「ありがとうございます」と礼を述べた。
どこをとってもそつのない対応であったが、心中はそれどころではない。
(バラライカ? バラライカって言った? あきらかにリクハルドさんを見ながら、バラライカって言った、よね?)
とてもとても聞きたい。その思いからリクハルドに目を向けると、背中に目があるかの如き反応の良さで振り返られる。
「リクハルドさん、あの……、バラライカ?」
アッカが尋ねると、船員たちも固唾を呑んでその答えを待つ気配。
竜の血に手足を染め、ゴーグルにまで返り血を受けていたリクハルドは、思い出したようにゴーグルを外して笑みをふりまいた。
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