1 王宮にて

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「時間が惜しいので、もう行きます。会食には参加しません。王太子であろうとどなたであろうと、艦長を拘束する権限はありません。この方は誰の部下でもありません」  オスカルが、すうっと目を細めた。 「お前には、口をきくことを許可した覚えはない」 「はい。許可を求めた覚えもありません。それが何か?」  声は、頭上から聞こえる。アッカはほんのわずかに背後を伺うように視線を向けた。自分より頭ひとつ背の高い青年。  茶色髪に翠瞳、黒縁眼鏡。朴訥そのものの印象の、飛空艇アルマリネの非戦闘員リクハルド。通称・参謀殿。普段戦闘に加わることはないが、口を開けばさすがに空賊たる者、好戦的な物言いをする。  さらりとした口調ながらしっかり噛みつかれたオスカルは、不快そうに顔を歪めた。 「何者だ」 「飛空艇アルマリネに間借りしている、素材屋です。主に戦闘で出たモンスターの死体から、人間が加工して使える部分を剥ぎ取って換金する仕事に従事しています。人呼んで空飛ぶ素材屋――」 「ふん。汚れ仕事専門というわけか。お前のような輩が歩き回れば王宮が穢れる。誰ぞ、つまみ出せ」  居丈高に吐き捨て、オスカルはあたりを見回す。何人かの文官や武官が周囲を取り巻いていたが、何ぶん相手は国王陛下の客人、アッカの連れ。優先すべき命令に迷ったように、一人も動かない。  その様を見てアッカは、オスカルに優しいまなざしを向けた。 「彼は私の大切なビジネスパートナーです。依頼を受けるかどうかも、彼と相談して決めているんです。陛下に会わずに帰れというなら、こちらはそれでも構いません。殿下はどうですか? 帰ってもよろしいですか?」  ぐうの音も出まいと思うと、心に余裕が生まれる。思わずアッカはオスカルに微笑みかけてしまった。その笑みを目の当たりにしたオスカルは、毒づくのも忘れたように見入っていた。  
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