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細く開いた窓硝子の隙間から、桜の花びらがひとつ、ふわりと舞い込んできた。
「友也、それ、拾って」
拾うの? と不思議そうな顔をしながらも屈んでくれる。
整然と並べられた机の足もと、ほこりひとつない床の木目に、友也の指先が触れる。
女の子みたいに白くて綺麗な指先を、しっかりレンズでとらえる。
「手のひらにのせて」
「こう?」
「そう。手は胸元……いや、お腹らへんでもいいかな。ちょうちょみたいに鼻先にのっけるのもいいかも……」
「あ、きれい」
友也が空を振り仰いだ。
茶色い後頭部がレンズに映る。窓の外をさぁっとすずしげな春風が通り過ぎて、桜並木がさらさらと揺れた。
おおつぶの桜が落ちる。私は少し距離を詰めた。
友也が振り返ったその瞬間、彼の瞳に色移りした桜色を撮るために。
──がらり、ドアの開く音がした。
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