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「友也ぁ」
独り言みたいな調子で呼びかける。友也が相変わらずきょとんとした顔で振り返る。
「ちょっと右寄って。私から見て右。そう、それでどうしようかな……一旦こっちに背を向けてみて。あ、半分こっち向いたほうがいいかも。……そうそう。やっぱり友也、表情作るの上手だよね」
隣の椎名に遠慮して、控えめに指示しながらシャッターを切る。
タイトルは『寂寥』にしよう。友也が生きてる証拠。
カメラを下ろして「さ、帰ろう」と歩き出した私の腕を、椎名がぱっと掴んだ。なんだか泣きそうな顔をしている。オバケが苦手なのかも。
「あかりさん、やっぱり何か見えてる……?」
「分かってるよ。私、やばい奴でしょ。ごめんね」
誰もいない教室、誰もいない墓地で、私は誰かがそこにいるみたいに急に喋り出して、何も映っていない写真を撮ったのだ。
分かってる。レンズの向こうに、友也はいない。
「いつもは人のいない場所でしか撮らないんだよ。誰かに話すつもりもなかった。……だけど、椎名くんはちょっと友也に似てるから」
「ともやさん」
「そう。私の友だち。……友也が死んでから考えるようになったの。あの子も本当なら、生きて一緒にいてくれたはずなのになって」
女の子みたいで、ふわふわしていて、かわいい子だった。保育園のときから私がお姉さん役で、いつかちょうちょを追いかけて道路に飛び出しちゃうんじゃないかと、一緒に遊びながらよく思った。
あの子が車に撥ねられた経緯を私は知らない。
まだ十四歳だった。中学二年の夏休み。棺桶の中で花に包まれた彼の身体はとても小さくて、見えるところに傷はなかった。だから余計に、生きてそのまま大きくなった姿を想像してしまう。
「軽蔑してもいいから、聞いてくれる?」
思い出すうちに口走っていた。
頷いた椎名の表情も声も優しくて、このひとは絶対に私を軽蔑しないんだと気づいたら、安心してすらすらと言葉が出てきた。
「私ね、友也の幻覚を見てるの。レンズの向こうにいるんだよ。カメラを構えればいつでも会える。私と一緒に大きくなって、三年間授業だって受けたし、今日の卒業式も出席したんだよ。きっと。そうじゃなきゃ可哀想だもん。友也はほんとは、今も生きてなきゃいけないんだ」
友也ならこういうとき、こんな表情をするだろうな。あの子こういう景色、好きそうだなぁ。そんな妄想をしながら生きていたら、友也が見えるようになったのだ。
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