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混乱したアザミは狸を床に放置し、少し離れた机の陰から様子を窺っていた。手には護身用のほうきが握られている。あんな小さな狸にアザミをどうこう出来る力はないと思うが、得体の知れないものに自分から関わっていく勇気もなかった。
時計の秒針が刻む音が嫌に耳につく。長いようで短い時間が過ぎると、ようやく狸が目覚めたようで身じろぎをし始めた。のろのろと四足で起き上がると頭を振る。
そうして顔を上げた狸と視線が交わった。ピャッと飛び跳ねた狸は自身の姿を見下ろし、もう一度アザミを見つめる。
狸の姿なのに、冷や汗を流している先程の子供の姿が重なる。せわしなく辺りを見回して逃げ道を探しているが、狸の力でどうにか出来るわけもない。
アザミはあたふたしているこの狸に恐怖を覚えていた自身が、急に馬鹿らしくなった。おもむろに立ち上がると高圧的に告げる。
「……さっきの子供が貴方なら、もう一度化けてみなさい。そうじゃないなら、狸スープにして食べるわよ」
ほうきで床を打つと狸は震え上がる。慌てて宙返りをすると、床につく頃にはあの子供が現れていた。
「変化したから食べないでぇ。僕なんてお肉も少なくておいしくないよぉ」
半泣きで頭を抱えて怯えている。アザミは大きく息を吐く。
「とって食べたりしないわよ。それより、貴方は何なの。それと何しに来たのか聞かせなさい」
「……ほんとぉ」
子供はぐずぐずと鼻を鳴らして様子をうかがってくる。アザミが大きく頷くとようやく涙を止めた。
話を聞くために応接用の椅子に腰を下ろし、向かいの椅子を指した。
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