代書屋のアザミ

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代書屋のアザミ

 時計の針が刻む音と、書類をめくる音が室内に響く。街の中心から外れたこの場所までは外の喧騒も届かない。  アザミは一人、机に向かっていた。窓から差し込む光を頼りにペンを走らせる。  ここはアザミが営む代書屋。個人商店が役所に提出する書類の代書を中心に請け負っている。  目印は万年筆と封筒をかたどった吊り看板で、道に面した住居の一室を事務所として使っている。窓際の書き物机に応接用のテーブルと向かい合わせに配置した一人掛けのソファ、壁際に書棚を置くので精一杯の小さな職場。  この空間に漂う紙とインクの匂いが、アザミはあまり好きではない。  でも、形式ばった書類を作ること、裏切らない数字と向き合うことは嫌いではなかった。
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