天井の向こうの天上

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 ねぇ聞いて。あたしもびっくりなんだけど、外へ出られる日がやってきたの。  人生初めての空、初めての太陽。これすなわち、初めての外出。イコール自由。  なーんて言ったら、おやおや新生児のお外(おんも)デビューかしら、などとあなたは思うだろうか?  ブーッ、大不正解。あたしは只今、花の十七歳。青春真っ盛り、のはず。本来ならば。  大人たちに言わせるなら「不憫(ふびん)なステイホーム世代」に、あたしは属している。  事の発端(ほったん)は、あたしがこの世界に生を()けた直後に始まった<新しい生活様式>までさかのぼる。  そのせいで、これまで十七年近くもの時をずっと、屋内で暮らしてきた。  まぁ生まれてすぐのころは平常な世の中だったわけだから、さっき冒頭で叫んだ「人生初めて」っていうのは正確には、ほぼ初めてってことになるんだけど。  細かいことは言いっこなしよ。実際そのころのことなんてなーんにも覚えてないんだしノーカンでいいでしょ。  あたしに限らず、だれにとっても二十年近い時の流れが長大に過ぎるというのは、確からしい。  周りの大人たちはもう何年も前から、それこそあたしが思い出せる一番の昔から、巣ごもり生活はもううんざりというムードに満ちている。  寝ても覚めても、見上げればそこには必ず天井があった。  人生のほぼすべてをこの状態で過ごしてきたあたしからすれば、今の<新しい生活様式>は、新しくもなんともない。  でも本当は、信じがたいことだけれども、頭のすぐ上にある天井の向こうには、広大な空がどこまでも続いているはずなのだ。  なのに現実は、空とあたしの間に天井の線をさっと引いて、「許されているのはここまで」とだれかの手によって制限されているみたい。  そのことがあたしは不満だった。
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