お肉、なに入れる?

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 翌朝学院へ登校したアズミは即座に校長室へと呼び出され、暫しの休学を申し渡された。  “暫しの休学”  実質無期ではあったが決して処分の類いではない。  一体なにがと問いただしても「ある方面からどうのこうの」と歯切れが悪い。  困惑しているうちに昨晩の神官が校長室まで迎えに来て、彼が呼びつけたというふたりの仲間とともに大きな馬車へ詰め込まれ、あれよあれよという間に迷宮(ダンジョン)の中だった、というわけだ。 「聖女派の! 大司教て!」  神官の厚い胸板を遠慮なく手の甲でひっぱたく。 「派閥でいっちゃん偉いひとやんけ! なんで下流街の酒場でヌルいエール呑んどんねん!」 「気にするな。これも女神の思し召しだ」 「いやあ女神さんは呑み屋の指定せえへんやろ。するにしても、もうちょい洒落た店選ぶやろ」  なにを言っても半分はこんな調子で埒があかない。アズミがすっきりしない調子でぶつぶつ言っていると合成魔獣(キュマイラ)の奥にあった扉を調べていた体格のよい女が声をあげた。 「もういい加減諦めな、ラムザはいつだってそうだよ。前触れもなくふらりと現れては『これも女神の思し召しだ』とか言って厄介ごとを持ち込むのさ」  “空席の大司教”ラムザといえば聖女派のトップとして重責を担う身でありながら、職務には半ばほども携わらず世界中を放浪している変人として権力者界隈では有名だ。  などと聞いたのもここに来る道中、目の前で扉と格闘している探掘屋のルピナスからで、田舎の平民で学者志望のアズミは当然知る由もなかった。  まあ知っていたところでどうせ彼女は『変わりもんなんかふーんとりあえずお近づきんなっとこ』くらいにしか思わなかっただろうが。 「はー、姐さんも匙投げるとかエッグいわ」 「くはは、伊達に大司教なんぞやってはおらんぞ」 「一応ゆうとくけど褒めとらへんからな」 「気にするな、俺は気にせん。それより俺もひとつ気がかりがあるのだが」  ラムザは目の前に立つ学者の卵を見下ろして言葉を選ぶ。 「お、おう。なんや?」  彼女は肩や腕こそ革のような素材で守られているようだが、全体的に下着を思わせる露出に見知らぬ文様の描かれた前垂れという出で立ちだ。学者というよりは踊り子か。どちらにせよ迷宮探索をする服装とは言えそうにない。 「お前も年頃の娘だし若さくらいは誇示したいのかもしれんが、その格好で迷宮探索はさすがに危険だとは思わんか?」  言葉の意味を一瞬吟味したアズミがじとりとした目で応じる。 「若さくらい、ってめっちゃカド立ってんな」 「そうか?」 「そらもうギンギンにおっ立っとるわ。これ一応故郷の魔術学者の正装で別にアタシが特殊な趣味ってわけちゃうんやで」 「ふむ。特殊なデザインだとは承知しているのだな。まあ正装とあらば致し方ないか」 「そらアタシかてわかっとるわ! ちゅうか半裸法衣の胸板バーン大司教様から服装の説教されんのどないなんや」  ラムザは足元こそしっかりしたものを身に着けているが、あとは防具も無しで胸板から腹筋まで惜しみなく晒け出している。 「俺の身に降りかかる艱難辛苦は全て女神より与えられし試練、なれば俺も身ひとつで受けねば不作法というもの。とはいえ全裸では社会風紀を乱し法衣が無くば教会より与えられた地位も示せず職務に差し障る。ゆえにこの姿が落としどころというわけだ」  ラムザが堂々と言い放つ言葉にアズミは露骨に眉をひそめた。 「姐さんこいつほんまに偉いさんなんか?」
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