お肉、なに入れる?

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「残念だけどそこらの騎士や田舎領主よりはずいぶんと格上だね……っと、開いた。ガロール、前を頼むよ」 「わかった」  呼ばれたもうひとりの男は大きく頷くと食べていた干し肉の入った大きな麻袋を、人間がすっぽり入れそうな巨大なバックパックへと押し込んだ。  ひと言で表現するならば、規格外。  立ち上がるとその頭の高さはアズミの倍ほどにもなる彼は、はち切れんばかりの筋肉をまとった丸太のような手足、くちびるに収まりきらないほど発達した犬歯に頭蓋と一体化した強靭な角を持つオウガ族だ。 「いくぞ」  巨漢と呼んでもまだ足りないほどの巨躯が悠々通れる巨大な扉は合成魔獣(キュマイラ)の出入りを想定しているのかもしれない。廊下も広く天井も高い。 「うーん。ひとの出入りがない迷宮の空気は酷く淀んでいるのが常なんだけどね」  ルピナスがガロールとラムザに前を譲りアズミの横に並ぶ。ラムザは中衛だ。 「ここは空気も悪くないしもしかすると見つかっていない別の出入口があるのかもしれないねえ」 「ほー……って、そっから合成魔獣(キュマイラ)出入りできたら(まず)いんちゃう?」  その疑問にはルピナスの代わりにラムザが答える。 「今のところこの辺りで合成魔獣(キュマイラ)の目撃報告はない。が、今後はわからんな。報告内容に加えておくか」 「えらいふんわりしとんなー。そんなもんでええんか?」 「強いて言えば今のうちに合成魔獣(キュマイラ)の母数を減らしておけばそのぶん地域の安全にも寄与できる……というわけで見かけ次第狩っておけ。討伐数で支払いを上乗せするぞ」  つまり積極的に敵を探して戦闘行為を繰り返すわけだ。  アズミはげんなりした顔で「そら景気のええ話やなあ」とだけ返した。  彼女の操る属性魔術は強力だが、そもそも戦闘員としてここにいるわけではないし己の力をそういった方法で誇示するのもあまり好きではない。  元々この探索は財宝を求めて隅々まで行うようなものではなく、初めて発見された迷宮に対して【世界の危機と言えるような脅威が埋もれていないか】【近隣住民への大きな影響はないか】などをざっくりと調査する目的で行われている。  その意味では合成魔獣(キュマイラ)を見かけ次第倒していくというのは決して目的から外れた行動ではない。ないが、やりたいかどうかは別問題だ。  そうしているあいだにも生々しい獣臭と唸り声が聞こえてきた。またしても歪な獣たち。  獅子、蛇、狼、(わに)、虎、熊……羽根を持つもの、皮膜の翼、厚い鱗に覆われたモノもあれば魚のようにヌメりテカった表皮を持つものまで。  灯りの届くところだけでもとりあえず五匹、気配や息遣いでまだ多くが潜んでいるとわかる。  並みのパーティであれば一度下がって態勢を立て直す場面だろう。 「ふん。一匹如きでは物足りんと思っていたところだ」  ガロールが口角を吊り上げ獰猛な笑みを浮かべる。 「マジかー……」  唖然としているアズミを尻目にとなりのルピナスが短銃を抜いて構える。 「まあ男どもは下がらないよねえ」  ラムザに至っては身構えすらせず泰然と佇むのみだ。 「マジかー……」  アズミは呻くようにもう一度同じ言葉を吐き出した。やるしかないようだ。
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