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身長三メートル、片手には人間の身長ほどもある大剣、逆手には鎧騎士ふたりはすっぽり匿えそうな大盾。なにもかもが規格外の一角巨人が踏み出すとそれだけで空気が震え埃が舞い上がる。
ノコノコと前に出た合成魔獣へ正面から大盾を叩き付けて弾き飛ばし、二匹目を頭から幹竹の如くカチ割った。
大きいだけでなく、動きに鋭さがある。
もたもたしているあいだに側面や背後に回られて囲まれたら全滅では? アズミはそう考えていたが、ただひとり前衛を張るガロールが余りにも強過ぎた。
大剣を引く動きに連動して大盾を突き出して飛び掛かってきた後続の動きを阻み、そのまま横の壁へと押し込む。
合成魔獣も自分たちが力負けするような経験はしたことがないだろう。壁と大盾に挟まれ、全身の骨を砕かれて息絶えた三匹目を目の当たりにして、明らかに残りが及び腰になった。
「解せんな」
倒した合成魔獣の死骸へ視線を向けて呟いた。
「なにがだい?」
攻めあぐねている合成魔獣目掛けて銃弾を撃ち込みながらルピナスが問う。片手間の牽制かと思いきやその弾丸は合成魔獣の目玉や鼻面へ的確に打ち込まれている。彼女も劣らぬ手練れだ。
「弱過ぎる」
「まあ、そうだねえ」
すぐそばに転がっている死体は牛やら熊やらの部品がでたらめに組み合わさった感じの姿をしている。とりあえず並みの人間よりはかなり大きく、大抵はそれだけで十分な脅威となりうるのだが、熟練の強者には物足りないようだ。
「せやろか。アタシは結構強かった気ぃすんのやけど。ガロールやったら遊び相手にちょうどええくらいなんかもしれんけど普通の人間は熊と逢うたら死ぬんやで」
アズミは、地元に祀られる伝説の騎士が幼少のころ斧を担いで付近の山々を駆け回り熊と取っ組み合いをして鍛えたという伝承を思い出していた。もしかするとその騎士はオウガ族の血を引いていたのかもしれない。
「それはそうだが、そもそも合成魔獣とはより強い生き物を作るためにいくつもの生物を魔術で掛け合わせ強化を施すものだろう?」
「んまあ、せやな」
「こいつは見た目こそ魔獣だが能力的には並みの野生動物と変わりない、むしろ歪な姿が弱体化を招いている。デカいだけではただの牛や熊のほうがまだマシというものだ」
「お、おう。さよか……」
規格外にデカいやつに言われるとめっちゃ微妙な気持ちになるな、とアズミは思ったがさすがに口には出さなかった。
「ちゅうことは失敗作なんやろか」
「かもしれん。合成魔獣ばかり出てくるのも気になる。こいつらは迷宮の障害として珍しいとは言えんが、こんなに続けて五匹も六匹も見る機会は稀だ。専門的に研究している魔術士が作り出した迷宮なのかもしれんな」
ガロールとアズミの考察を黙って聞いていたラムザが口を開いた。
「まあなんにせよ進んでみるしかあるまい。この中で魔術に一番詳しいのはアズミ、お前だ。なにかあれば報告せよ」
「んまあ了解やで。まかしとき」
「じゃあ話もまとまったところで悪いんだけどね」
ルピナスがうんざりしたような声を上げた。
「そろそろあいつらをなんとかしてくれないかい。私の銃弾は無限じゃないんだからね」
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