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「いや黙んなや。アタシがやったみたいな空気なっとるやんか」
「ああ、ちょっと虚を突かれてな。悪かった。まあ、ともあれ探索は一応最奥部まで行わねばならんからな。引き続き頼むぞ」
ラムザがルピナスに視線を向けつつ重々しい言葉を吐き、彼女が呼応するように溜息を吐く。
「とはいえ、若干モチベーションが削がれるねえ」
「そーなんか? アタシはこれ以上未知の危険がなさそうで安心しとるんやけど」
収入の為にやってきたアズミと遺跡探掘を趣味と実益を兼ねた生業としているルピナスでは仕事に対する姿勢が大幅に違うのは仕方のないところではあった。
とはいえルピナスは探索の要。【おそらくはこの先も無いであろう罠】を警戒し実際に無いと証明出来るのは彼女だけなのだ。そのモチベーションの低下は万が一に繋がる。
もちろん彼女はプロフェッショナル。仕事はきちんとこなすだろうが……。
「アズミよ」
荷をまとめ直したガロールが立ち上がる。
「その品種改良された家畜というのは、もしかして相当に旨いのではないか?」
「最初に領主様の口に入るもんやしなあ、そらそれなりには旨いやろな」
その言葉にガロールが「そうだろうそうだろう」ともっともらしく頷く。
「ルピナスよ」
彼は視線の先を変えて言った。
「二百年以上前の魔術士が食う為だけに生み出した合成魔獣の最高峰、食ってみたいとは思わんか?」
「いや思わんやろ」
アズミが間髪入れずに否定したが彼女、ルピナスは違った。
「いいね、それ」
「うそやろ」
「いいや、大マジさ」
ルピナスはすっかりやる気になっていた。
「むしろ美味いとわかり切っている未知の食材に興味を示さない探掘屋なんかいないよ」
「さ、さよかー……まあ探掘屋っちゅう職業がアタシの埒外なんだけはようわかったわ」
愕然とした顔でなんとか返したアズミにラムザが口を挟む。
「これは女神より課された試練ではあるが各々己の意志に基づいたモチベを保つ目途が立つなら無論それに越したことはない。いくぞ」
「ええこと言ったような顔で〆んなや大司教」
「なんだ、俺は良いことを言ったろうが」
「う、うーん、せや……なあ?」
自信満々に問い返されると確かに異論は無い、ような気もする。
そこから先は早かった。奥に行けば行くほど合成魔獣は旨いに違いないという、もはや信仰にも似た思い込みを持った火力二名が凄まじい勢いで敵を排除し扉を開け放ち進撃していったのである。
「それにしたって早いやろ! 今まで手ぇ抜いとったんかい!」
アズミの剣幕にガロールとルピナスが答える。
「馬鹿を言うな、俺たちはいつだって本気でやっている」
「ただ百パーセントが百二十パーセントになる理由があった。それだけの話さ」
「ほんまにそんだけの話なんか……」
解せぬ顔のアズミの前には、恐らくこの迷宮で最も完成度が高いと思われる合成魔獣が、既に地に伏していた。
特筆すべき戦いはなにもない。
戦い慣れしていないアズミの目から見ても、正直この合成魔獣は群を抜いて弱かった。
仕方のないことだ。
彼らに求められているのは【強さ】ではなく【美味さ】であり、それを求める連中はこれまた悲惨なことに【この上なく強かった】のだ。
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