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初めてのお客様
「ああ〜! 今日はいい天気だなあ! 絶好のタクシー日和だ!」
いきなり叫んでごめんなさい。
僕の名前は燕拓史。
今日から、タクシー運転手になりました。
ずっと憧れていた仕事にようやく就くことができて、感無量です。
憧れの白い手袋をはめて、いざ憧れのハンドルを握ります。
ああ、独特の車内の香りよ。いつまでも嗅いでいたい。
初めての車で、初めて運転します。
初乗り660円です。ワンメーターの走行距離は1.5kmで、1分50秒ごとに80円加算されますよ!
初めてのお客様には、元イラストレーターでも何でもない僕が初めて描いた僕の似顔絵付きの特製ステッカーをプレゼントします。先着一名様、限定です!
ああ、楽しみだなあ。早くお客さまを乗せたいなあ。
今、空車ですよ! 僕の後ろ、空いてますよ!
ほら、誰でもいいから乗って乗って! 遠慮しないで!
新人ですけど、この日のために近くの道路は抜け道までしっかり頭にインプットしてきたんです。
どこにだってご案内できますよ!
何もかも初めてですけど、任せてください!
……などと考えていたら、僕のタクシーを歩道から覗き込んでいる人影が。
おっと、ついに来ちゃったか。初めてのお客様!
僕はさっそくドア開閉ボタンを押して、お客様を車内に誘い込む。
「お客さん、どちらまで⁉︎」
ルームミラー越しにお客様を確認してギョッとした。
お客様が、何故か目出し帽を被っていらっしゃる。
「……ギンコー行け」
どうしよう。初めてのお客様が、銀行強盗しそうなんですけど。
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