罰ゲームならしょうがない

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「あの、さ。....実は今日羽柴に伝えたいことがあって...」 「え、うん。何?」 染谷とは相変わらず視線が合わないが、そんな重々しい口ぶりで話し出すので俺は無意識に息を飲んだ。 その後少しの沈黙を置いて、染谷はゆっくりと俺に視線を合わせる。 その目は不安そうに揺れており、震える唇からは信じられないような言葉が紡がれた。 「ずっと好きだった。...俺と、付き合ってください」 何を言われたのか、わからなかった。 言ってることの意味はもちろん理解できる。 でも、なんで、...─── 「...なんで俺...、?」 混乱した頭では、はいでもいいえでもなく、そんな情けない言葉が口をつく。 染谷は俺の問い掛けに答えることもなく俺の目の前に手を差し出してきて、承諾するならその手を握れと言わんばかりに俺を見つめた。 それに対してどうしたらいいのかわからず、俺はただただ視線を彷徨わせる。 いやまじで意味がわからない。 今まで碌に関わったこともなければ、俺は染谷に見染められるような立派な人間でもない。 本当に何で俺なんかに.... そんなことを考えつつ、気まずさに困り果ててふと染谷の遠く後ろに目を向けた時、俺は体育館横の茂みに誰かが潜んでいるのを見つけた。 そこにはたしかに昼間染谷が俺に声を掛けたときに後ろに控えていた染谷の友人たちがいる。 友人たちは俺が視線を向けた瞬間、慌てたように茂みに姿を隠したが、それで俺は全てを悟った。 ...ああ、これはとんだ茶番に巻き込まれたかもしれない。 つまり、罰ゲームってやつだ。 そうとわかれば俺の動揺も幾分かマシになり、差し出されたままになっている染谷の手にゆっくりと視線を移す。 「染谷くん、これ罰ゲームっしょ」 「...は?...いや、違っ...」 「まあいいって。わかってるから」 「...え?...うん、?」 小声で声を掛ければ染谷は慌てたように否定するが、罰ゲームかと問われてはいそうですなんて認めるわけもない。 俺は一人納得した。 染谷たちは俺をからかって暇つぶしでもしようと考えているんだろう。 最後の最後には俺に実は罰ゲームでしたとバラして面白がるビジョンが目に見える。 普段の俺ならそんなものも断って平穏に学校生活を送るところだが、今日の俺は得体の知れぬスリルを求めて、それはそれで楽しそうだな...などとあらぬ方向に考えが傾いた。 罰ゲームでもなんでも、そっちがその気なら俺も乗ってやる。 なんか楽しそうだし。 「...うん、いいよ。わかった」 俺がそう考えて差し出された染谷の手を握ってやれば、染谷は驚いたように目を見開いてから、嬉しそうにその顔を綻ばせる。 「え、まじ!?...や、やった...!やった!」 罰ゲームが滞りなく遂行できることに喜んだらしい染谷はそう言って喜ぶので、俺は苦笑いするほかない。 まあ罰ゲームは俺と染谷の二人が協力し合えばなんとでもなるだろう。 側から楽しんで見ている友人たちにそう見えるようにすればいいだけの話だ。 だったら、罰ゲームの相方として─── 「これからよろしくね、染谷くん」 「...うん..、!」 俺の退屈な日常は、染谷と罰ゲームで付き合うことによって少しずつ変わる。 なんとなく、そんな気がした。
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