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3.強敵
直後に行われた決勝戦。アリスが負けてしまった栃木代表の宮本選手対レイラだった。
「始め!」
の合図と同時に、
「オリャーーーーーー!」「キエーーーー!」
レイラは気合負けしていない。同じ中段同士の戦いだ。アリスは相手を「速い」と言った。レイラはいつもにも増して神経を研ぎ澄ませた。
一瞬だ、この竹刀1cm…いや、1mmの動きで勝負が決まるとレイラは考えた。この宮本という選手もアリスと同じでイメージが入って来ない…さらに研ぎ澄ます…。(きた!)
私が面に出ようとすると同時に右小手打ちに来るようだ。
(誘いにのってやろうじゃない…)
レイラは今までこんな挑発には乗ったことはない…。アリスが倒されたという事実は、レイラの正常な判断をも狂わせていた。
レイラはこれ以上ない速度で面打ちに行ったところ、普段と違ったイメージがきた。
レイラが面打ちに出ようとした剣が、まるでスローモーションのようにゆっくりと宮本選手に振り下ろされるところに、相手の剣が「グン!」と伸びてくるのが見えたのだった。
レイラはこの時になって初めて罠にはめられたと悟った。このままでは自分の剣が相手の面に当たる直前に小手を打たれてしまう、と考え、咄嗟に面打ちを止めて剣を右に倒したところ、相手の剣にわずかに触れることができた。
その触れた分だけ相手の剣の軌道が変わったのか、レイラの右小手をかすめて、
「バシィ!」
と、ほとんど腕に当たった。
判定は、副審2名のうち1名が「小手1本」の旗を上げ、もう一名は(浅い)と旗を足の前で交差させて何度かバタバタさせている。
そして主審は…右手が「ピクッ!」と上がりかけたが、ややあって足の前でバタバタと旗を交差させた。(浅い)だ。
レイラは今、アリスが負けた理由が飲み込めた。
(この人、私やアリスみたいな能力があるのかも知れない…)
宮本選手は私の剣の動きではなく、「私がどう打っていくか」を読んで打ち返してきた。私に咄嗟に変なイメージが入らなかったら負けていた、とレイラは思った。
勝負は五分五分か、いや、長引けば私の体力が持たない…。
チラっと横目で見ると、アリスが何やら叫んでいるが、会場の喧騒にかき消されて聞こえない…。
このまま長引くのはマズい…。レイラは一か八かの勝負に出るしかないと考え、右足を「スッ」と前に出そうとしたその時!
「逆胴がくるよ!」
と頭の中にアリスの声が入って来た。
通常の胴打ちは、手首を返し、相手に向かって左に剣を倒しながら斜め上から切り下ろして胴に当て、そのまま相手の右側方に向け走り抜けるのが普通だが、逆胴は手首は返さずに相手が振りかぶった時に相手から見て左側の脇に当てる感じで斜め上から切り下ろす。
レイラから言うと左の胴を打たれるとアリスは言っている。
何も疑うことはない。アリスのいうことに間違いなどあるはずがない。「信じる!」レイラは軸足の左足をさらに左に開きながら、右足を一度それに引きつけると、今日最高の速度で右足を踏み出しながら、相手の逆胴切りを跳ね上げ、
「メンンンッ!!」
と言ってこれも最速の速さで剣を振り下ろす。
「パーーーーンッ!!」
会場ではこの決勝戦しか行われていないため、だだっ広い会場の隅々まで音が響いた…。
「やめ!」
と主審が言った後、
「面1本、そして時間なので、神崎選手の1本勝ち!」
と宣言すると同時に、
ドワ~~!!という歓声に包まれた。
礼を終えた後、レイラはアリスに駆け寄り、ぴょんと飛び上がって抱きつき、
「アリスー!私、アリスの仇打てたよー!」
と言って抱き合って泣いた…。
表彰を終え、帰り道の公園の道で、レイラはアリスに、
「最後の瞬間に、アリスの声が頭の中に聞こえたの。逆胴だ!って」
「そっか。私はあの時宮本選手の考えを必死になって読んでいたんだけど、まったくわからなくて焦っていたの。でも最後に宮本選手は「勝った!」と考え、同時に逆胴のイメージが読めたから、私必死でレイラに向かって「逆胴だー!」って念じていたのよ」
「え?なら、やっぱりあの時アリスの言葉が聞こえたんだ!不思議ね~…」
とレイラは納得がいった。
こうしてレイラが優勝でき、アリスは3位でそれぞれメダルを胸に、高知に帰って行った。
渚の街のモノクローム外伝 「レイラアナザーストーリー」⓶ 終
あとがきは次のページです。
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