初めての授業

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 何十年も高等学校の教員をしていた。辞める気はなかったが、理想とする教育の実践できる学校を求めて何度も学校を変え、その結果、これからという時に仕事を失った。  教員を辞めてはや数年。今、授業のために使った物などを処分している。ーーもはや学校の現場に戻る必要も、その気もなくなったからだ。  これまでの学校教育の形が変わるのもそう遠い未来ではない気がする。なぜなら、AI搭載のオンラインの教材で自分に合ったレベルで学ぶことが可能になっているし、良い学校に行って良い会社に入って良い結婚をするといった社会モデルも崩壊しつつある中で、そのシステムに適合する人間を大量生産する方法がいつまでも持つわけがない。  そんなある日、教師になって初めての年の最後にとった授業アンケートが出てきた。やんちゃで勉強嫌いの生徒が多い学校で、授業にならない日もあっあったことを思い出し、苦笑した。  百枚以上ある紙を一枚一枚丁寧にめくり、ふと手が止まった。  「無理に生徒に合わせようとしないで、先生のしたい授業をした方がいいと思います。」  君は実に正しかった。  学校を辞めた今はね、自分の専門とする分野と、それとはまったく関係のなさそうな分野をつなげたテーマでの授業を、自分と同世代の、日本全国、時に海外の人にまでオンラインで教えている。  あの時叱ったあの生徒も、この生徒も、もしその子たちだけだったら、もっと興味を持ってもらって、笑って楽しみながら授業ができたのではないかと思う。  本当の意味での私のしたい授業ーー再び子どもたちに向けてできる日が来るだろうか。果たして、私が初めて教えた生徒たちの子供たちや孫たちにそれができるであろうか……「ありがとう」の代わりに。    
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