猫?

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猫?

 近所にあるコンビニでのバイトを終えて、アパートの階段を上がる。このアパートももう4年目になった。就活が終了すれば引っ越すかもしれないが、狭いとはいっても、築6年という比較的新しいところが俺は気に入っていた。  203号室。隣には1週間前に男が引っ越してきた。202号室の郵便受けには「SEKIGUCHI」の真新しいテープが貼り付けてある。ベランダの仕切りからちらりと見かけたところでは、随分小柄なやつだった。たぶんこの春にうちの大学に合格したやつだろう。大学まで歩いて15分。このアパートの部屋のほとんどが学生で埋まっていた。  入り口のドアの鍵穴に鍵を突っ込んだ途端にどこからか「ニャー」という猫の鳴き声が聞こえた。たぶんあの小さな鳴き声は、うちによく来る「ハナ」だ。この辺りは地域猫が多く、住人が野良猫の面倒を見る温かな雰囲気が漂っていた。 「ただいま」  誰もいないことは分かっているがいつも声に出して言っちまう。鍵を渡した相手も何人かいたが、長くは続かなかった。告白されても長く続かないのは、俺が悪いのか相手が悪いのか……。 『ま、俺だろうな』  聞かれれば何でもかんでも正直に答えちまう俺の性格。大抵の奴は、俺が男でも女でも抱けるというと逃げちまう。どちらでも同じだろうに。好きになるのに性別が関わりあるのか? イマイチ分からん。  玄関で靴を脱ぎ、短い廊下を進む。奥にある8畳一間のワンルーム。ロフトがなけりゃ荷物で溢れかえるところだが、それがこのアパートのいい所。広いロフトに邪魔な荷物を全部詰め込めるからすっきりと使える。ドアを開けると、まだ冷たく感じる春の風がサッと吹き込んできた。 「あれ? ハナ?」  窓が少しだけ開いている。ベランダの曇りガラスの掃き出し窓の向こう側に、小さな生き物の姿が消えていくのが見えた。テーブルの上には、空になった缶詰がそのまま転がっている。  真っ直ぐに窓へ向かい、ベランダを確認する。今朝出しておいた、缶詰を入れた皿の中身は綺麗に無くなっていた。 『っと、オイオイオイ。猫は箸を使わんだろ』  あることに気づき、振り返ってテーブルを見る。テーブルに置きっぱなしの缶詰はマグロの油漬け。人間の食いもんだ。そして奇麗に並べて置かれた箸とマヨネーズ。その時、ベッドの上で布団が微かに動くのが見えた。 「うおっ!」  思わず声が出る。その時、布団の中から小さな猫の鳴き声が聞こえた。  ニャー 『ハナ?』  思わぬ展開に、俺の頭は少しずつ混乱し始めた。    
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