最期の楽園

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 ここは、猫生最後の楽園だ。  寿命を間近に控えている猫たちが集まり、残りの余生を楽しく過ごすことが出来る場所。  そしてこの俺も、最近ここに辿り着いたその一匹だった。  山の奥深くにあるこの場所は、ともすれば辿り着くことが出来ないまま死期を迎えてしまう者もいるぐらいに、秘境と化している。  余命一年。俺はそれを察するなり、早々に旅に出ていた。  見送る仲間達は口々に「あるかも分からない場所を探して野垂れ死ぬことはない」と最後まで言っていた。  それでも俺は、一縷の望みを掛けてこの『最期の楽園』を目指して、彷徨い歩き続けたのだ。  辿り着いた時には余命半年ほどで、半ば諦めていて、最後は静かな場所でと思い、山を登った所で見つけたのだった。  急に開けた視界の中。一面には花々が咲き乱れ、そこには自分と同じ猫たちが飛び跳ね、談笑する姿があったのだ。  呆気に取られていた俺に最初に声をかけてきたのは、美しい青い瞳を持つベージュがかったの雌猫だった。 「ようこそ。最期の楽園へ」  その一言に俺は情けないけれども、へたりと腰を落として涙を流していた。  その日から俺は、最期を待つに相応しい楽しい日々を送っていた。  どの猫も穏やかで、野良時代の殺伐とした日々が嘘のような平和な毎日だった。  もちろん、野良時代に出会った仲間達との思い出も懐かしく、思い出すと郷愁を感じることもある。だけど、餌が食べれる食べれないかとか、車に轢かれるんじゃ無いかとか、そういう不安や緊張と無縁なのは、死を前にしては有り難い状況でもあった。
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