最期の楽園

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 餌はいつでも食べれるように用意されているし、見たこともないオモチャもあった。俺はそれで遊んだり、仲間とじゃれ合ったりしていた。  そんな自由で気ままな生活を送る中でも、やっぱりここは『最期の楽園』だった。  死は毎日のように隣にいて、昨日まで元気だったはずなのに、翌日には目を覚まさないということが、何度もあった。  その度に次は我が身であることを実感させられていた。それに加えて、死んだのが自分と親しければ親しいほどに胸が苦しく、悲しみに打ちひしがれそうにすらなった。  亡骸はみんなに見送られる形で、近くにある川に運ばれて流される。仲が良かった者が、花を流すこともあった。  流れゆく亡骸を見ながら、自分もこうして惜しまれながら川の一部になるのかと思うと、感慨深い気もしていた。    寿命が近づいてくると食欲が減り、遊ぶ元気を失ってくる。  俺は寝ることが多くなっていた。病気などで苦しみながら死んでいく者に比べれば、寿命で死ねる俺は幸せなのかもしれない。  死んだらどうなるのか。何処へ向かうのか。  死期が近づくに連れて、もっぱらの話題はそれだった。 「生まれ変わっても、また同じ人生がいい」  そう言ったのは、最近仲良くなった雄猫だった。綺麗な茶色の長い毛が生えていたのだが、今は病気で所々が剥げ落ちてしまっていた。  彼はノルウェージャンフォレストという、何とも舌を噛みそうな猫種らしい。初めて見た長すぎる毛と大きさに俺は最初、紛れ込んできた別の動物かと思ったぐらいだった。  彼は飼い猫であったが、病気になって死を悟り、この場所に来たそうだ。
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