最期の楽園

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「老夫婦に飼われていたんだけどね。良い飼い主だったんだ」 「へぇー。飼い猫なのに、この場所に来たなんて珍しいな」  噂を聞く限りではここにいる十頭近くの猫たちは、野良猫ばかりだった。だから飼い猫がこんな場所にいるのは、かなり珍しい。 「もしかして、捨てられたのか?」  俺は哀れみの込めた声で問う。かつての仲間に人間に捨てられて、途方に暮れていた者がいたからだ。 「そんなことはしないよ。僕のことをとても可愛がってくれたからね。それに彼らの元を去ったのは自分の意思だから……」  彼はとんでもないと首を横に振り、それから寂しそうに笑った。 「それならなんで、ここに来たんだ? 彼らの元で一生を終わらせればいいじゃないか」  虐待もされていないようだし、可愛がられていたのならば、何の苦もないはずだ。  聞くところによると、人間に飼われれば寝床もご飯も困らないという。だが、残虐非道な目に遭わされたり、飽きたら捨てられるということを聞いていた俺は人間が嫌いだった。 「僕のこんな姿を見て、嫌な思いをするんじゃないかって思ってね」 「まぁ、人間は薄情だからな。どうせ、要らなくなったら捨てるんだ。自分たちの都合の良いときだけ可愛がって、面倒になったらその辺に捨てておしまい。同じ生き物としての尊厳なんて、彼らには関係ないんだよ」  まるで俺がそんな目に遭わされたかのように、口からすらすらと言葉が出た。実際に体験したことのある仲間がいるからこそ、経験はなくとも怒りは湧き上がった。 「そんなことないっ」  突然、彼が声を荒げたことで、俺だけでなく、みんなが何事かとこちらを見る。
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