最期の楽園

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 ハッと我に返ったのか、彼は決まり悪そうに俯いた。 「僕の飼い主は、最後まで僕を可愛がってくれていた。まるで本当の息子みたいにね。僕が病気だって伝えなくても、彼らはすぐに気付いてくれたんだ。可哀想だって、言ってくれて……嫌いだけど、何度も病院に連れて 行ってくれて――」  彼はそう言って、涙を目に溜めていた。俺は決まり悪くて、彼から目を逸らす。 「だけど、お医者さんは言ったんだ。治療しても、完治は難しいって。それを聞いて、彼らは泣いてたんだ。なんとかしてくださいって、何度も頭を下げてて……」 「……ごめんな。そうとは知らずに」  俺は素直に謝った。いくら俺が嫌いでも、彼にとっては大切な人なのだ。  彼は頷いてから、再び口を開いた。 「僕はね、元々捨て猫だったんだ」  その言葉に俺は目を見開く。 「飼った当初は可愛がられていたんだけど、そのうちに世話が面倒になったみたいでね。公園に捨てられちゃったんだ」 「えっ、それは酷い」 「だから、君の言いたいこともよく分かる。捨てられてすぐの時は、僕も人間を恨んでいた。裏切られたって気持ちが強かったから。死ぬかもしれないって分かっていたけれど、絶対に人間についていくもんかって決めてたし」  そんな彼が何故、老夫婦の元に行ったのか。俺は気になってしまい、襲い来る睡魔がいつのまにか吹き飛んでいた。 「だから老夫婦が僕を見つけたとき、最初はかなり抵抗した。噛みついたり、ひっかいたりもしたんだ。だけど彼らは優しい声で、何度も言ったんだ」  彼は訴えるような目を向けて続けた。
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